大学生のお宝

「紅葉ちゃんそれは……」

「これですか? 舞さんがお土産の袋を返してくれてそれに入ってましたけど」


 まずいまずい、高校時代の負の遺産が未来や紅葉ちゃんに晒されてしまう……


 紅葉ちゃんが茶封筒を開けようとしたところを俺は一気に茶封筒が入っていた袋ごとを引きぬ、


「ちょっとお兄さん!? なんでそんなに必死にこの袋を取ろうとするんですか!?」


 紅葉ちゃんは俺が袋を掴んだ瞬間、見た目と反してものすごい力で対抗してくる。 本当に女子高校生なのかと疑ってしまうほどの握力に俺は額に汗を浮かばせる。


「えっとね紅葉ちゃん、袋くらい俺が持つよ」

「お気になさらずにお兄さん。 このくらい私一人でも持てますって」


 俺と紅葉ちゃんとで袋を引っ張り合っていると、


「仲良くしなさいー! そんなんだったら私が持つよ!」

「「え!?」」


 未来が俺たちから袋を取り上げ腰に手を当て頬を膨らませた。 どうやら俺と紅葉ちゃんが喧嘩まがいのことをしたことに怒っているようだった。


 って、どんな力してんの!? ただでさえ紅葉ちゃんが女の子としては並外れた握力をしていたのにそれを上回る握力を未来は持っているのか!?


「俺、今後未来には逆らわないわ」

「わ、私もです……」


 俺たちの言葉にキョトンとしている未来だったが思い出したかのように茶封筒を取り出した。


「で、この中身はなんだろう」

「あ、やめ」


 未来は茶封筒を開け中を覗いてしまった。 しかし未来はすぐに茶封筒の口を閉じると俺に袋を渡してきた。


「つっくん、紅葉ちゃんがいないときに話があるよ」

「まじで申し訳ない……」


 今度は紅葉ちゃんがキョトンとしている。 未来は紅葉ちゃんに中身を伝えないようにしてくれたのだろう。


 未来さんまじ女神。


「結局中身はなんだったんですか?」

「んーとね、大人の絵本?」


 未来さん、それ隠せてないです。


「え!? な、なんかごめんねお兄さん!」

「いいんだ…… 俺も男子、こういう本くらい欲しいと思う時期があったんだ……」


 もはや虫の息となった俺を紅葉ちゃんはかわいそうなものを見る目で見つめてくる。 いっそのこと殺してくれ……


「ま、まあお兄さんも男の人ですからね! わわわ、私は全然気にしませんよ!」

「気にしてるなら正直に言っていいんだよ……」


 紅葉ちゃんはロボットのように動きがぎこちなくなり無理やり作った笑顔もひきつっている。


 とりあえず場が落ち着いたので俺たちは家に向かって歩き始める。 お互いに気まずい空気になり誰も声を出そうとしない。


 この静寂が俺にとって一番きついんだよな……」 こんなことならお宝を家に置いてくるんだった。


 *


「待って! それだけはぁぁぁァァァァ!」


 無言のまま家の近くまで帰ってきたと思ったら未来が無表情でゴミ置き場に袋を投げ捨てた。 俺はお宝に愛着が湧いていたらしく体が勝手に反応してゴミ置き場に向かって落ち始めている袋を取ろうと手を伸ばす。


「つっくん、ダメ」


 俺の手は未来によってがっちりとホールドされ袋はゴミの山へ積み上がった。


「お兄さん、あきらめてくださいね」

「嘘だァァァァァァァァ!」


 こうして俺の思い出の品は無残にも燃えるゴミになってしまった。


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