大学生とカピバラ姉妹

「お兄さんアイスー」

「俺はアイスじゃないぞ」


 過去に同じようなやり取りを未来としたな、と思いながら俺は紅葉ちゃんのために冷蔵庫からアイスを取り出す。


 紅葉ちゃんが家出をしてから三日が経ち、この家に慣れてきたようだ。 本当は慣れちゃいけない気もするがあのクソババアのところに強制的に返すのは俺としては気が乗らない。


「ありがとお兄さん、大好きです」

「はいはい、ごみは自分で捨てろよー」


 もはや未来みたいな扱いになってしまった紅葉ちゃんはアイスを食べるためにソファから立ち上がりアイスを取る。 そしてすぐにソファに戻りテレビを見ながらアイスのふたを開ける。


 初対面の時はしっかりしていて杏樹みたいだな、と思っていたけれど本当は未来似だったようだ。 その証拠にほら未来と全く同じ体制でテレビを見ているんだもん。


「未来ー、あんまり紅葉ちゃんをそっちの世界に連れて行くなよー」

「んー? 私はいつも通りにしているだけだよー?」


 明らかに未来のダルっとした雰囲気が紅葉ちゃんにも移っている。 これはまずいな、この家にカピバラが二匹は飼いきれないぞ。


「あ」


 俺はあることを思いつき机に置いていたスマホを手に取りある人に電話をかける。


『もしもし? どうしたのよ紗月』

「杏樹よ、頼みがある。 今から蘭ちゃんを連れてうちに来ないか?」


 紅葉ちゃんも秋からこの辺の高校に通うことになるんだし蘭ちゃんとはいい友達になるだろう。 それに未来も杏樹がいれば嫌でもシャキっとするだろ。 多分。


『別にいいけどなんか面倒ごとの匂いがするんだけど』

「ん! べ、別に何もないぞ」


 相変わらずの勘の良さだな…… まあ、面倒ごととわかってもちゃんと来てくれるから頭が上がらないんだけどな。


『はぁ、分かったわ。 ちょっと待ってなさい』

「杏樹さんマジ神」


 あ、切られた。


 未来と紅葉ちゃんは俺が電話しているのをじっと見ていたが相手が杏樹とわかった途端代わってほしそうな目つきで俺を見ていた。


「つっくん! 今のって杏ちゃんだよね!」

「杏樹さんとはどんな人なんですか!?」


 二人にはなんと説明したものか。 未来はともかくとして紅葉ちゃんに杏樹のことを一言も話していなかったとは。


「えーと、今から蘭ちゃんと来るから一旦落ち着こうな」

「え、蘭ちゃんも来るの!?」


 未来は蘭ちゃんも来るのが予想外だったらしく驚いている。 紅葉ちゃんは誰か分からず頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。


「とりあえず部屋片づけるか」

「「……うん」」


 二人のここ三日のぐうたら生活によってリビングに散乱しているごみを見て俺はため息をつく。 二人とも根はしっかりしているのに何でここまでダメ人間になってしまうのだろう。


 あ、俺がエサをやってるからか。

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