大学生たちの朝

 重い…… 何かが俺の頭に乗っている。


「んん、未来ー」


 頭の回っていない俺はいつもの調子で未来を呼ぶ。 しかしなにも返事はなく寝返りを打とうとして横を向く。


 すると俺の目の前には顔が整っていて髪が短く肌艶もいい雄二の顔があった。 俺は叫びにならないほどの声を上げ布団から一瞬にして出る。


「はあ、はあ。 朝からこんな目に合うなんて……」


 神様、俺は何か悪いことをしましたか?


 俺は仕返しにすやすやと気持ちよさそうに寝ているゴリラの背中を軽く蹴る。


「ンゴッ、グゥゥー」


 ゴリラは背中を蹴られながらも何も気にせず熟睡している。 昨日のどんちゃん騒ぎに巻き込まれていたのだからしょうがないと思いつつ俺は夜のうちに先輩が洗濯してくれていた服に着替える。


 先輩の家の柔軟剤はいい匂いだなあ、と思っていると俺とゴリラのいる部屋の扉がノックされる。


「おーい、起きてるかいー? 朝ごはんで来てるから起きてたら出ておいでー」

「はーい、雄二は寝てるので放っておきますねー」

「私に免じて起こしてはくれないかー?」


 さっき背中を蹴ったにもかかわらず熟睡してるからな…… 普通の起こし方では起きないだろう。


 しかし先輩からお許しがもらえた今、何をしてもいいということだ。 これ以上のチャンスはない。


「おらぁ! 起きろゴラァ!」


 俺はドスを利かせた声をあげながら雄二の足の裏をくすぐる。 もっと暴力的なのを想像してたって? 俺は紳士だぞ、そんなことしない。


「あははははっははは、やめろ紗…… あひゃひゃひゃひゃひゃ」

「ちょっと!? 紗月君! 君は何をしているんだい!?」


 ただ友達をくすぐっているだけですがなにか? ゴリラの弱点なんてこのくらいしか知らない。 意外に何でもこなすイケメンキャラめ……


 よほど気になったのか先輩はバンと扉を開けた。 先輩は上下モコモコのパジャマを着ている。


 可愛いとかの感情より先に暑くないのかと心配してしまう。 それでも流石は小動物と言わんばかりに着こなしている。


「……とりあえず二人ともご飯だよー」

「あ、先輩の目が死んでる」

「先輩誤解ですって!」


 男二人がくんずほぐれつ、近距離で体を触れ合わせていたらそりゃあ勘違いの一つくらいするものだろう。 だがここに言わせてもらう、すぅー


「誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その後、先輩と事情を聴いた女子二人の誤解を解くのに三十分かかりました。


 *


「それじゃあね紗月君! またおいで!」

「先輩こそまた変な勘違いしないでくださいよ」


 荷物をまとめ俺と未来に紅葉ちゃんはメナージュを後にした。 朝ごはんはメナージュのモーニングセットをご馳走になり朝から得した気分だ。


「それにしてもお兄さんがそっちもイケるとは…… もしかしてライバルが増、」

「えないから! 俺は異性に一途なタイプです!」

「そんなぁ、朝から大胆だよつっくん」


 紅葉ちゃんにツッコミを入れるとそれに重ねるように未来までボケてくる。 流石は親戚同士と言わざるを得ないけど俺の体力は根こそぎ持っていかれるんだよなあ。


「あ、お兄さん! これって何ですか?」


 紅葉ちゃんがメナージュから出た時から持っている紙袋からA4サイズの茶封筒が出てきた。


 あ、それは雄二に渡すはずのお宝…… ってヤバイ! なんで紅葉ちゃんが持ってるの!?

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