大学生の仲直り

「ご、ごめっ」


 急に唇と唇が触れ合ったことに驚き、俺は後ろに下がろうとする。 すると未来は俺の頭に手をまわしてきて離すまいと俺を抱き寄せた。


 どのくらい続けていたのか分からないほど長い時間が過ぎ、ようやく未来は俺を解放してくれた。


「ぷはー、おかえりつっくん」


 未来は俺の顔をじっと見つめ赤くはれた目元をこすりながら笑った。 あの話の後、ずっと泣いていたんだろう。


 俺はなんて罪深い人間なんだろう。 こんなになるまで彼女を泣かせてしまうなんて。


「未来、やっぱり俺は未来の彼氏でいたい。 どんな問題も二人で乗り越えていきたいと思ったんだ」

「うん、私も」


「だから…… 俺と付き合ってください!」

「そんなの断れるわけないじゃん……」


 またも未来が俺に抱き着きバランスを崩した俺は家の前の廊下に倒れこむ。 背中に痛みを感じつつもこの温もりだけは離すまいと俺も未来を抱きしめた。


「あの…… そういうことは家の中でやってもらえると……」


 俺と未来はマンション内の見回りをしていた警備員さんに注意されてしまった。 二人とも顔を真っ赤にして急いで立ち上った。


「「すみませんでした!」」


 恥ずかしさに耐えきれず謝罪を言い終わるとすぐに扉を閉めた。 きっと警備員さんも今頃ため息をついているだろう。


 それにしても何なんだろう。 たった一時間近く会っていなかっただけなのに未来を見ていると今まで以上にドキドキする。


「つっくん、顔赤いよー」

「お互い様だって」


 言われずとも俺の顔が真っ赤なのは自分でもわかっている。 それに未来も今までにないくらいに赤いだろうが。


「やっぱり二人が一番だな」

「そうだね、つっくんが出て行ってからずっと寂しかったんだ。 このまま帰ってこなかったらどうしようとか私のことを捨てて違う女の人と付き合っちゃうんじゃないかとか」


 それを聞いて俺は胸がいたくなる。 ずっと一緒に過ごしてきた彼女の心の中くらいわかったつもりでいた。


 でもわかっていたどころか泣かせてしまった。 俺は男失格だな。


「何回も言ってるけど俺は未来以外、付き合う気はないぞ」

「つっくん…… もう大好き!」


 またも未来は抱き着いてくる。 俺は丁重にそれを受け流しソファに座る。


「未来に抱き着かれたらいつ解放されるか分かったもんじゃない。 ほら、一緒に映画を見るんじゃなかったのか?」

「そうだね! よけられたのはちょっとショックだけどその分甘えさせてもらうからねー!」


 いつものテンションの未来に戻り、俺は一安心する。 未来は俺の隣に座り、肩にもたれかかってきた。


 シャンプーの甘いにおいが香ってきて抱きしめたい衝動が出てきたが俺は必死にそれを抑えた。

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