大学生と平手打ち

「じゃ、仲良くねー!」

「ちょ、先輩! 流石にまずいですって!」


 俺と杏樹、蘭ちゃんの三人を残して先輩はお店の方にかけて行ってしまった。


「えーっと、二人はなぜここに?」


 俺は重くなる空気を感じながら杏樹と蘭ちゃんに問いかける。 二人も気まずそうにしているのは分かってはいるもののこのままだんまりは良くない。


「家の水道管が壊れちゃって断水中だから泊めてもらおうと…… 紗月はどうなの? みーちゃんがいるのに一人で先輩の家に泊まりに来るってまさか浮気?」

「え!? それは見過ごせないよ紗月にい!」


 杏樹がありもしないことを口にすると蘭ちゃんも反応して詰問してくる。 やっぱり姉妹だなあと思いつつ俺はなんて返そうか悩んでいた。


「未来と別れたので行く当てもなく先輩に泊めさせてもらうことになりました」

「「ええええええええええ!?」」


 あ、これデジャヴ?


「別れたってホントなの紗月にい!?」

「嘘よね!? 私たちをからかってるだけなんでしょう!?」

「残念ながら誠です」


 それから杏樹と蘭ちゃんに事情を話し理解してもらった。 幼いころから付き合いのある二人だし話してもいいと思ったので包み隠さずすべてを伝えた。


 二人とも初めて聞く未来の家庭事情に驚いたのか数分ほど黙り込んでしまっている。 杏樹と蘭ちゃんは小学生以来高校に入るまで会うことがなかったため中学以降に未来が一人暮らしをしていたのも知らなかったという。


 蘭ちゃんは何も言えず手を何か言いたげに握っている。 俺も何も言えずに時がただ過ぎていった。


 数分して杏樹はこう切り出した。


「今すぐ帰りなさい! そんな時こそあなたが支えてあげなきゃ!」

「でも未来が決めたことだし……」


 ピシっ


 こればかりはどうしようもないと俺が俯いた瞬間、頬に鋭い衝撃が走った。 俺が顔を上げるとそこには蘭ちゃんが立っていた。


「紗月にいのバカ! 今まで未来ちゃんが一人で背負ってきてそれを話してくれたのに紗月にいはそれを助けないわけ!? そんなの紗月にいじゃないよ!」

「蘭ちゃん……」


 涙目になりながら蘭ちゃんは訴えるように言った。 俺は一瞬何も考えられなくなったが蘭ちゃんの顔を見てすぐにやるべきことが分かった。


 今、未来をにさせてはいけない。 そう思った俺はすぐに部屋を出て靴を履く。


「先輩! やっぱ帰ります!」

「りょーかい! もっかいフラれてきなさい!」


 俺はメナージュを出て家の方向に走る。


 今まで未来が抱え込んできた問題をわざわざ一人で解決させるなんて俺はバカか!? 後ろ盾するとか言っておきながら家に一人で取り残すなんてありえないだろうが!


 走りに走って俺の家のあるマンション前までやってきた。


「はあっ、はあ」


 エレベーターを使う時間ももったいないと感じた俺は階段を駆け上がりついに家の前までたどり着いた。


「未来! やっぱり俺っ、」


 勢いよくドアを開けると目の前には未来がおり、唇と唇が触れ合った。


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