大学生と別れ

「未来、今なんて言った……?」


 俺は聞き返すように未来に問いかける。


「私たち一回別れよう」

「……なんで?」


 俺は頭の中が真っ白になった。 周りの状況が何も頭に入ってこず、未来の言葉がずっとループして聞こえているようだった。


 なぜ? 俺、なにか未来の気に障ることしたか……?


「私ね、つっくんが今日外出てる間に考えたんだ。 本当は私の問題なのにつっくんに迷惑かけて私自身は楽な方に逃げちゃっていいのかなって」


 未来は不安交じりの声で俺にお願いする。


「だから…… この問題が解決するまではお願い! 私と別れてください」

「そんなの……」


 俺はここで唇を噛んだ。


 確かに未来の言い分にも同意できる。 家族や個人の問題なのにそれに俺が首を突っ込んでいいのかって考えたことは今日一日で何度もあった。


 でもあのクソババアは未来一人でどうにかできるような人じゃない。 未来が一人で行けば今まで以上に傷を負うことは目に見えてわかっている。


「わかった、ただし条件がある。 猶予は一週間でこの家は好きに使っていい」

「でも…… つっくんはその間どうするの?」

「俺は雄二とか知り合いの家に泊めてもらうよ」


 あいつなら事情を話せばいくらだって手を貸してくれるだろう。


「そして最後の条件だ。 絶対に無理はするな! 俺はいつだって未来の味方をしてやるからもう駄目だと思ったら俺を呼べ、いいな!」


 俺は念を押すように強く言った。 これだけは俺の本心、偽りのない言葉だった。


 それを聞いた未来は少し涙ぐみながらも頷いた。 そして俺は最後に安心させるため未来の頭を撫でてやった。


「……うん! 私頑張るから! だから、終わったらまた私のことを撫でてね?」

「ああ、約束だ。 一週間後また戻ってくる」


 その後、俺は最低限の荷物をまとめて家を出た。


 *


「いらっしゃー、って紗月かよ」

「ようこそ紗月君! って、あれ? 未来ちゃんは一緒じゃないのかい?」


 メナージュに入ると先輩とゴリラが迎えてくれた。 二人は俺が一人なのに驚いたようで聞いてくる。


「未来のことですか? 別れましたよ」



「「ええええええええええ!?」」


 こらこら二人とも、まだお店にお客さんいるのにそんな叫んじゃだめじゃないか。


「ど、どういうこと!? 別れたってホントなの!?」


 舞先輩が俺にお茶を出しながら聞いてくる。 雄二はよほど驚いたのかフリーズしている。


「本当ですよ、まあ一週間の間ですけどね。 それで行く当てがないのでどこか泊めてくれるとこはないかと探していたんです」

「一週間? なんだか事情がありそうだけどとりあえずうちに泊まっていくかい?」


 え、先輩の家に!? 親御さんもいるから安心だろうけど雄二が許してくれるかな。


「お願いしたいんですけど…… その、いいんですか? 彼氏持ちで他の男を家に泊めるって」

「別に問題はないよ。 ただ紗月君には空いている部屋に泊まってもらうから」


 空いている部屋、おそらくは住み込みの人用の部屋なのだろう。 外は暗くなっているし今夜は甘えさせてもらおうと思い俺は泊らせてもらうことにした。


 荷物だけでも、と舞先輩に連れられ部屋に向かう。


「ここだよー」


 扉を開けると……


「え、紗月?」

「紗月にい!?」


 なんと杏樹と蘭ちゃんがパジャマでトランプをしていた。

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