大学生と高校生

「つっくーん、アイスー」

「俺はアイスじゃないぞ」


 旅行から帰ってきて早三日。 暑さがピークになっている東京に住んでいる以上、誰しもがクーラーに当たりゴロゴロしながらテレビを見ているだろう。


 だって俺の目の前にいる未来がそうなんだから。


「まったく、いつまでゴロゴロしてるんだ? バイトだってあるんだろ?」


「んー、地球が氷河期になるまで?」

「もう一生動けないじゃん」


 このところ毎年毎年気温が上がっていて電気代がバカにならない。 それに誰かさんがアイスを大量に食べるため夏は食費がギリギリになっている。


「未来は食いすぎだ……」

「それが取り柄ですから! それよりアイスまだー?」


 もうないっての。 しょうがない、夕飯のこともあるし買い物行ってくるか。


「未来はアイス以外に買ってきてほしいものとかあるか?」

「特にないかなー。 あ、アイスはバーゲンナッツねー」


 よりにもよって一番高いやつかよ…… まあいいんだけどさ。


「じゃあ行ってくるから大人しく待ってろよ」

「あいさー」


 *


「やっぱり暑いな……」


 外に出るとむわっとした暑さがまとわりついてきて額に汗がにじんでくる。 道には人は歩いておらず家で涼んでいるようだ。


 俺はなるべく早くスーパーに着こうと速足で歩く。


「あ、紗月にい!」


 陽炎で視界が歪む中、向かいから一人の少女が歩いて来ていた。


「蘭ちゃん、久しぶりだね。 今から買い物?」

「そうなんですよう。 お姉ちゃんが行って来いって」


 蘭ちゃんとは杏樹の妹で俺が小さいころによく杏樹と一緒に遊んだ妹みたいな存在だ。 歳はそんなに離れていないはずなのに大きくなったな、とおじいちゃん思考になってしまう。


 それにしても高校一年生か。 見える世界が新しくなって楽しいんだろうな。


「杏樹もなかなかひどいな。 こんなに可愛い子を一人で炎天下に放り出すなんて」

「か、可愛いなんて…… やっぱり紗月にいは女たらしさんなんだね」


 え? 誰が女たらしだって?


「蘭ちゃん…… そんなこと言うようになったんだね……」

「え、違うよ! 紗月にいに久しぶりに会えたからつい舞い上がっちゃって……」


 蘭ちゃんはしょんぼりした顔になり俯いてしまった。


「ご、ごめん! そんなつもりじゃ……」


 すると蘭ちゃんはパッと顔を上げて笑うと、


「やっぱり紗月にいはからかい甲斐があるね」

「蘭ちゃんも変わらないね。 相変わらず俺を困らせる」


 昔は笑顔で俺についてくるくらい純粋だったのに。 今だったら俺が捕まるな。


「せっかく会ったんですし一緒に買い物しません?」

「ああいいぞ、ただアイスはおごらんぞ」


 ちょくちょく買っていたらポケットマネーが底をつきそうになってるからな。 地味に次の給料日までやばいんだよな。


 まあ小説家だから給料日じゃなくて入金日だけど。


「うー、ケチなのも変わってないー」


 俺は慣れた身振りで華麗に聞き流しスーパーに向かって歩き始める。


 高校一年生と一緒にいて職質されないといいなあ。


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