大学生とヤンキー

「ンで海竜先生であってンのか?」

「え、あ、はい。 そうです……」

「なら早く言えよ。 こちとら探してたンだから」


 大学の校舎裏、俺と謎の眼鏡女子は向き合ってメンチを切っていた。 正しくはお互いに知られてはいけないことを知られて気が気でないだけなのだが、そんなことを落ち着いて考えられるほど俺たちは冷静ではなかった。


「それで俺が海竜と知って何がしたいんだ? 誰かから恨みを買うようなことはしていないと思うんだが」

「恨みを買うだと……? てめえなめてンのか?」


 あ、ボコられる。 そう思い俺は逃げようかと後ずさりし始める。


「私はなあ! あんたのファンなンだよ! だからこれにサインしてくれ!」

「……え? サイン?」

「ああ、そうだよ。 時間もあんまりないンだし早めにしてくれると助かるンだけど」


 彼女は懐から何かを取り出した。 俺はナイフか何かだと思い距離を取ったがよく見るとそれは俺の出しているライトノベルだった。


「え、サインだけでいいの? カツアゲとかされるんじゃないの?」

「私を不良と勘違いしてるンじゃないの? 私はいたって普通の女子だよ」

「そうですね…… それでお名前は……?」


 ここまで踏み込んだ話をしているのにもかかわらず俺は彼女の名前を一切聞かないでいた。 だって怖いんだもん……


「あ、日向だ。 サインは未玖の口調で日向ちゃんがいいかな」

「お、おう。 じゃあ書くな」


 しゃべり方と相反して中身は可愛いんじゃないか? と思ってしまった…… それに最初に話したときは少しおっとりしたしゃべり方だったのに。

 そんなことを思いながら俺は表紙の後ろのページにサインを書いた。 忘れずに未玖の口調で、日向ちゃんありがとう! とも書いておいた。


「サンキューな! そうだ、このしゃべり方のことはほかの奴には内緒にしてくンないか? 色々と面倒だからよ」

「わかった。 それにしても俺たちどっかであったことあったか?」


 この日向とはどこかで会っていたような気がしてきた。 それも結構最近なような……


「そりゃあ、同じ学科だからな。 嫌でも目に入るだろ」

「えええ!? じゃあこの後の講義も!?」

「もちろん出るさ。 私は不良じゃないからな」


 なんとなく説得力のない不良じゃないアピールは置いておいて、大学に入って一か月ほど経つのに顔すら覚えてないなんて…… 俺ってどんだけボッチなんだよ……


「ちなみに海竜君が知っているはわからないけどサザンドラの現会長だぞ」


 海竜君って呼び方で決定なのかよ…… って、え!? サザンドラだって!?


「サザンドラってあの有名な同人サークルのか!?」

「おうよ! 今度見に来るか!?」


 こんなところでサザンドラと関われるなんて! 今後軽いスピンオフとかも書こうとしていたし、イベントの運営とかためになることもあるかもな!


「行かせてくれ! いや、行かせてください!」

「いいぞ。 海竜君とあればいつでも来いって感じだ」


 話の途中だがそこで予鈴が鳴り、俺と日向は走って講義に向かった。


 よっしゃあああサザンドラと関わりが持てたなんて! 今度佐藤さんにでも自慢しよ!

 ってサザンドラって腐敗系がメインじゃなかったっけ……

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