大学生と船着き場

「ほら紗月、起きて! 着いたよ!」

「んん? 六実か?」

「六実ちゃんですよー」


 どうやら俺は芦ノ湖に向かう途中に寝てしまったらしい。 肩に重みを感じ見てみると俺と同じように未来も寝ており無防備に俺の肩にもたれかかっている。

 それにしても未来は寝すぎだろ……


「おい未来ー、着いたらしいぞ。 起きろー」

「んあー? もう着いたのー?」


 寝ぼけた未来は俺の肩によだれを垂らしながら起き上がった。 っておい、よだれ垂らすなよ。


「うわー! みずうみー!」

「ここでも雄たけびはするんだな」

「まあねー。 私のアイデンティティだから!」


 また周りの観光客に迷惑をかけながら未来は豪語する。 そのうち水たまりを見ただけでも叫びだしそうだな……


「ほらつっくんも! 一回やってみなって、世界が変わるよ!」

「ええ…… 俺はそんなキャラじゃないし……」

「みずうみだー!」


 俺の後ろで未来の真似をした六実が叫んだ。 俺はびっくりして体のバランスを崩したけれど何とか持ち直せた。

 いきなり叫ぶなよ…… 危うく転ぶところだったぞ。


「おい、なんで六実までやってるんだよ。 これじゃあ俺もやらなきゃいけないみたいじゃないか」

「さあ一思いに、せーの」

「せーのじゃねーよ。 俺はやんないからなー」


 何かすっきりした顔をした六実を置いて俺はフェリー乗り場へ歩いていく。 未来と六実は俺の後ろで楽しそうに話しながらついて来ている。

 こうしていれば可愛い二人組なんだけどな。 現実は非情ってやつか。


「それでつっくん? 六実ちゃんのチケットってあるの?」

「そういえばないな。 じゃあ六実は俺たちが帰ってくるまで待っていてくれ」

「それはひどいよ!? 私だってチケットくらい持ってるさ!」


 そう言うと六実はTシャツに手を入れ胸の谷間からチケットを取り出した。


「やっぱり六実ってバカだろ」

「えー!? 反応薄っ! もうちょっと恥ずかしがるとかないの!?」

「え、だって最初に思ったのがバカと古いだからな。 より傷つかない方を選んであげたんだぞ」


 それに汗と胸にはさまれていたのとでチケットがくしゃくしゃなってるし…… なんで俺の周りの女子は見た目が良くて中身が残念なのが多いんだ……?


「私もやろうかなー」

「頼むから未来はやらないでくれよ!? そんなことしたら引くからな……」

「それじゃあ私がやったことに引いてるみたいじゃん」


 不服に思ったのか六実が話に割り込んできた。 

 当り前じゃん、ドン引きだよ…… どう考えても従妹が胸からフェリーのチケット出してきたら関わらないでおこうと思うよね!? 


「それはもう、過去に前例がないくらい引いてるよ」

「なぬ…… もうやんない」


『芦ノ湖遊覧フェリーにご乗車される方はお急ぎの上、乗り場受付までお越しください』


 案内が流れ俺は時計を見てみると、出港まであと五分を切っていた。


「急ぐぞ二人とも! このままじゃ乗れないぞ!」

「あいさー!」

「はいはい、それにしてもさっきのそんなにつまんなかったのかな……」


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