大学生とデッキ

「計三人ですね。 良い旅をー」

「ありがとうございましたー」


 時間ギリギリのところで受付を終え、無事にフェリーに乗り込むことができた。 俺たちが乗った瞬間にスロープが外されフェリーは出港した。


「危なかったねつっくん」

「ホントだよ…… 六実があんなことしてるから……」

「ちょっと根に持ちすぎじゃない? 私泣いちゃうよ?」


 六実はけろっとした顔で言う。 本当に泣くならイジリ倒してるからな。


「とりあえず一回中に入るか」

「そうだねー。 そしたらデッキから景色見たい!」


 俺たちはとりあえず船内に入りデッキへと続く階段を探した。 そしてデッキに上がる階段を見つけたのだが階段の前に船の乗組員さんがいるのに気が付いた。


「デッキにお上がりになられますか?」

「あ、はい。 三人なんですけどいいですか?」

「チケットを確認させてもらっていいですか?」


 ん? どういうことだ? 無賃乗船を防ぐためかな。

 俺たちはチケットを取り出し乗組員さんに見せる。


「すみません、こちらの普通乗船券ではデッキには上がることができないんです」

「じゃあ俺たち二人で行ってくるな。 六実は船の中から楽しんでくれ」

「え!? 私のチケットじゃ上に行けないの!?」


 六実はよほど驚いたのか一瞬フリーズしていた。 そして自分のチケットを見て嘆いていた。


「なんか安いと思った…… そういうことだったんだね……」

「まあ、船の中からでも景色は見えるんだし元気出せって」

「うん…… 私は窓から楽しんでるよ。 二人は私の分まで楽しんできてね」


 なんか重いな…… たかがデッキなんだけどな。


「わかった。ちゃんと写真撮ってくるから」

「ごめんね六実ちゃん。 六実ちゃんの分まで目に焼き付けておくね」


 未来、それは追い打ちかけてる気がするぞ。 六実なら大丈夫だとは思うが。

 少し俯きがちな六実をおいて俺と未来はデッキへと続く階段を上っていく。 そして大きな扉を開けると、


「綺麗だねー。 六実ちゃんと見れないのが残念だけど」

「確かにこれはお金を払う価値があるな……」


 眼前には緑に染まる山々と青く澄んで輝いている水面が目に入ってきた。 湖の周りには人工物がなく雄大な自然と反射して映っている空がとても綺麗で思わず見入ってしまった。


 *


「港まで残り五分となりましたので船内へお戻りください」


 デッキに来た乗組員さんの声でようやく時間の経過に気が付いた。 俺と未来はあまりに綺麗で約二時間近くデッキで景色を見ていたようだ。

 すごいな、もう二時間も経ったのか。 六実はちゃんと大人しくしてるなかな。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る