大学生の根底

「あ、つっくん! どこ行ってたの!?」

「おお未来、もう起きてたのか」


 部屋に戻るとはだけた浴衣姿の未来があちこちを荒らしまわっていた。 どうやら起きて俺がいなかったので探していたらしい。


「悪い悪い、ちょっと外に出ていたもんでな」

「なら書置きくらいして行ってよー。 随分探したんだから」

「うん、そこは謝る。 でもここまで荒らすもんかね」


 未来が寝起きで荒らした部屋は見るも無残に散らかっている。


「えへへ、私が全部片づけるからつっくんはそこで着替えててね」

「あいよ。 未来も片づけが終わったら用意しろよ」

「はいはーい。 すぐ終わらせるー!」


 そう言うと未来は猛スピードで片付け始めた。 寝ぼけた時はとことんポンコツになるのに目が覚めると今のような完璧人間になるのは今でも謎なんだよなあ。

 とりあえず着替ようと思い俺は玄関側に移動する。


 コンコン


 着替え途中でドアがノックされた。 俺は中居さんだと思い返事をした。


「はーい。 今着替えてるので少し待ってもらっ」


 ガチャ


 言い終わる前にドアが開き、空いたドアから見えたのは六実の姿だった。


「あー、なんかごめん」

「ごめんで済んだら警察はいらないぞ」

「じゃあ私も脱ぐ?」


 こいつはバカなんだろうか。 あと、まだ上を着てないからドア閉めてほしいんですけど。


「つっくん、何騒いで…… ってなんて格好してるのつっくん!」

「あ、未来ちゃん! 一昨日ぶりー!」


 あ、俺は放置なんですね。 わかりましたよ、服を着て和室で大人しくしてますよ。


「未来ー、話し終わったら呼んでくれー」

「はーい。 すぐ終わるから待っててねー」


 俺はさっきまで布団が敷いてあった和室に戻り、本を読み始める。 その本は俺の師匠である佐藤さん、いや豊浜沙耶の最新刊である。

 内容は冴えない後輩と照れ屋の先輩との恋愛小説で、これまた人気作である。 ちなみに雄二と舞先輩からインスピレーションをもらったそうだ。


「やっぱりすごいなあ…… 文から才能が伝わってくる……」


 彼女の作品はすべて心に響いてくるものがある。 それは物語ごとの主人公の気持ちだ。

 恋愛がメインなら初々しい恋心が、ファンタジーなら非現実を味わう主人公の心情がそのまま同じ体験をしているように感じるのだ。 こんなに人の心に干渉してくる文を書けるなんて天才としか言いようがない。


 くそ、負けてられない。 一刻も早く豊浜沙耶からまいったと一言と言わせたい。


 高校二年からそれを思い続けて書いてきた。 今更目標を変えるわけがない。


「つっくーん。 準備できたし行こー!」

「おう、今行く」


 だから俺は未来とともに生きて書き続ける。 読んだ人の心を動かせるような小説家になるために。


 ってなんか最終回みたいだな。 なんか恥ずかしくなってきた……

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