大学生と執筆
「そうして幸せに…… これでいいか」
時刻は夜中の三時、部屋の電気は消えパソコンからの青い光だけで書き続けていた。 ようやくプロット分の話を書き終え、字数は二万字になっていた。
これだけの量があれば日向も文句は言えないだろう。 我ながらよく頑張ったな、いつもと違うジャンルということもあって徹夜は覚悟していたんだがな。
中途半端な時間だが未来が起こしてくれると思うし寝るか。 推敲は日向に全部任せよう。
「よく頑張ったぞ俺……」
俺は布団に入るなり睡魔に襲われたためすぐに眠りについた。
というわけではなくコーヒーのカフェインによって目がギンギンなのだ。
流石に一リットルは買いすぎたな…… 眠れそうにないしどうしようかな……
「あ、そういえば」
何かを思い出したかのように荷物の入ったリュックを漁る。 そして中から取り出したのは黒い温泉卵だった。
すっかり忘れていたな。 これと温泉饅頭があれば夜食としては丁度いいし動画でも見ながら朝まで時間を潰そう。
って温泉饅頭ないじゃん! 未来め、全部食べやがったな。
「はあ、温泉卵で我慢するか……」
小さいレジ袋を取り出し殻をむいていく。 外の殻が黒くても中はちゃんと白いんだな、てっきり中まで黒いのかと思っていた。
温泉卵を食べながら俺はエゴサをしてみることにした。 エゴサーチなんて作家になりたての頃しかしていなかったのだが少し人気が出てきた今、どのように評価されているか純粋に気になった。
『海竜先生凄すぎ。 内容は王道なのにこんな引き込まれるなんて凄いとしか言いようがない』
『なんか日常過ぎてつまらない。 それにヒロインが一人しかおらず求めていたのと違った』
など俺のラノベは賛否両論のようだ。
まあこんなもんだろ。 売れれば売れるほど人の目について批判も多くなるわけだし、批判の数だけ読んでもらっていると考えればいいだろう。
それにハーレムが書きたくて作家をやっているわけでもないしな。
コンコン
「こんな時間に誰だ?」
時計を見ると四時になっていたが朝早いのに変わりはない。 非常識な奴だなと思い玄関に向かう。
「おはこんばんわ。 やっぱり起きていると思ったわ」
「日向!? なんでこんな時間に?」
ドアを開けると浴衣姿の日向がいた。 一応俺も浴衣なのだが…… ってそれはいいか。
「私、この時間にはいつも起きているの」
「どんだけ健康的なんだよ」
いや、むしろ体に悪いのでは? と思ったが言わないでおこう。
「それでいつも散歩に出かけるのだけど海竜君もどう?」
「暇だしいいですよ」
外の空気に触れれば中途半端な眠気も吹っ飛ぶだろう。 それにさっきまで書いていた小説も渡せるしな。
「じゃあ行きましょうか」
「おう、ってなんで俺にそんなくっつくんだよ!」
日向は俺の手を掴み腕を絡めるようにしてくっついて歩き始めた。
こいつ腐敗系にしか興味がないんじゃないの!? これからどうなるの俺!?
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