大学生とご飯粒

「あ! 明日、日向との約束があったんだった!」

「ちょっとつっくん、声大きいよ」

「ご、ごめん……」


 静かな喫茶店の中、突然大声出してしまって凄い恥ずかしい……

 すっかり忘れていた。 明日はサザンドラのところで続きを書く予定だったっけ……


「ところで明日、日向ちゃんと予定があるってどういうこと?」


 未来は少しだけ不服そうな顔で聞いてくる。 


「予定と言うか仕事と言うか…… 明日はまた半日書かなきゃいけなくてな」

「そっか…… うん、お仕事頑張ってね!」

「おう! すぐ終わらすからな!」


 すぐに終わらせる、とは言ったもののまだ量を把握してないんだよな。 しょうがない、今日の夜のうちにそこそこの量書いておくか。


「なら明日はフェリーだね! 私楽しみにしてる!」


 突然仕事があると言ってもこの笑顔。 本当に未来はいい彼女だな。


 ひとしきりゆっくりとした後、俺と未来は喫茶店を出て旅館に向かう。 夕食前だというのにクロワッサンは食べすぎたな、お腹が重く感じる。

 確か今日の夕食のメニューは山菜の天ぷらだっけか。 タラの芽は大好物だし最後に取っておこうかな。


 *


「つっくんのもーらい!」

「俺のタラの芽! 大事にとっておいたのに…… 泣くぞ」

「うそうそ、いいよ食べてー。 はい、あーん」


 一度は俺からぶんどったタラの芽の天ぷらをこっちに向けてくる。 ふん、そんな甘い手には乗らないぞ。 なんせ俺のタラの芽に対する愛は、


「あーん」


 やっぱ許す! なんだこれ! 今まで食べてきた中でも一番に値するおいしさだぞ!


「うんまい…… 今なら何でも許せそうだ……」

「前につっくんのアイス食べちゃった」

「うん、許さん」


 最近暑いなと思って買っておいたやつだったのに…… ずっと雄二かと思ってたけど食べたのは未来だったのか……


「えー、なんでよー。 今何でも許すって言ってたじゃんー!」

「じゃあ今度アイス買っておいてくれよー」

「しょーがないなー」

「ごちそうさまでした」


 アイスの話をしていたら食べ終わってしまった。 未来は俺より早く食べ終わっておりずっと俺のことを見ていた。


「なんだ? 顔になんかついてるか?」

「ご飯粒」

「え? あ、ああ」


 俺は頬についたご飯粒を取ろうと手を近づける。 すると未来が手を伸ばしてきて……


「ほら、ちっちゃい子じゃないんだから」


 俺の頬からご飯粒を取ると食べてしまった。 え、食べた?!


「未来!? なんで食べたんだ!?」

「もったいないしつっくんだからいいかなーって」


 そんなもんなの!? 俺はこんなにドキドキしてるのに!?


「つっくんも気を付けてね。 外でやったら恥ずかしいんだから」

「未来も今の、外でやるなよ。 そっちの方が恥ずかしいから……」


 外でやられたら恥ずかしさで死ねる気がする。 でも少しドキドキしたような……


「失礼します。 食器を片付けてもよろしいでしょうか」


 ちょうど中居さんが食器を片付けに来てくれた。 恥ずかしくて固まっていたしタイミングとしては完璧ですよ! 中居さん!


「邪魔になっちゃうしお風呂でも行こっか」

「そうだな。 すみません、お願いしてもいいですか?」


 中居さんは快く引き受けてくれた。 なので俺は中居さんに部屋のことを任せお風呂に向かった。

 今日は色々あったからな。 ゆっくり休もう。

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