大学生の焦り
「よし、行くか」
未来の不意打ちにより二十分ほど足止めを食らい、やっと気持ちが落ち着いてきた。
この後はロープウェイに乗って下山するんだが、
「つっくんー。 ガラガラすぎて貸し切りだよー」
「こんなに空いているとはな…… まあゆっくりできるしいいか」
「そうだねー」
俺たちは誰も乗っていない十人乗り程度のロープウェイに入る。
「なあ未来」
「なーに?」
「これってどこに座ればいいんだ?」
十人乗りのため二人ではとても寂しく感じる。 向かい合って座ったとしても両脇が寒く、隣同士でも空いた空間が大きすぎてむなしくなってしまう。
「あえて寝っ転がるとか?」
「するかよ、普通に向かい合わせでいいよな」
「むー、しょうがないなー」
ボケを一言で流されたせいか不機嫌な未来がじっと俺のことを見てくる。 ロープウェイ内は吊っているケーブルの軋む音以外お互いの息の音しか聞こえず何か気まずい雰囲気になっている。
ってなんで二年も同居してる彼女と気まずくなってるんだよ俺。 普通でいいんだよ普通で。
「け、景色綺麗だな」
「そだねー」
……話が続かない。 いつもどうやって話してたっけ!? そしてなんで何も言わないの未来さん!?
無音の時間が続き、突然ロープウェイが止まった。 俺と未来が戸惑っていると、
『えー、申し訳ありません。 システムトラブルにより一時停止させていただきました。 復旧作業を至急行いますので少々お待ちください』
と、ロープウェイに常備されている無線から聞こえた。 どうやら安全のための緊急停止だったようだ。 しかし復旧がいつか分からないとなるとこの先の予定が狂うな。
「大丈夫かなー」
「話し方的に重大っぽくないしすぐ終わるだろ」
「だといいなー」
*
緊急停止から一時間が経ち俺と未来は最悪のことを考え始めていた。 このまま半日近く閉じ込められるかもしれないのだからしょうがないだろう。
「つっくん…… なんか心配になってきたよ……」
「確かにな……」
配線がショートしたとなればその部分を探すのだけで半日はかかりそうなものだ。 なんせ山一つ分のロープウェイなのだから。
そうなると今日の予定どころか明日の予定すら崩れかねない。
いけないな。 こういう時こそ悪いことを考えず前向きにいるのがいいんだよな。
「まあ、そのうち治るだろ。 それに天気も悪くないし安心して待っていよう」
「うん、そうだね! こうしてつっくんと二人きりになってるんだもんね!」
「そうだぞ。 俺がいるんだから安心しろ」
なんか言っていて恥ずかしくなってきたけど、こういう時くらい格好つけたっていいだろう。 それにしても一時間もたっているのに無線がないなんて一体何があったんだろう。
まだ時間がかかるなら一言旅館や日向に連絡を入れておきたいんだが…… かけておくか。
「あー、もしもし?」
「何よ、女湯から出てきた犯罪者さん」
「それには深い理由があるんだよ! ってそんなことより今、ロープウェイに閉じ込められてるんだけどさ」
俺はなるべく正確に今の状況を日向に伝えた。 日向は数秒ほど間をおいて、
「今どうなっているのかは大方理解したわ。 もしも今日中に戻れなかったら旅館側にも伝えておくから安心んして閉じ込められてね」
「ありがとな。 それから昨日の誤解はあとでゆっくり解いてやる」
「それは楽しみだわ。 それより今はスマホを使うのを最小限にすることね。 いざって時に使えないのは死も同じだからね」
そう言って日向は電話を切った。 昨日にあんなことがあったというのに本当に知的で頼りになるやつだな、とつい思ってしまう。
くそ、早く誤解も解きたいし…… 早く復旧しないかな……
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