大学生と風呂上り

「つっくん、くっついてもいい?」


 顔が火照っている未来は露天風呂に入るなりいきなり聞いてきた。 周りには誰もおらず完全に二人きりの状況で俺はどう接していいか困っていた。


 ついさっきにキスをしたばかりだというのにこんなことまで…… 絶対に部屋で気まずくなるぞ……


「お、俺はもうのぼせそうだから上がるな」


 こう言うしかないだろう。 ただでさえさっきから心臓がバクバクだというのにこれ以上は色々と持たない気がする。

 俺は露天風呂から上がり男湯に戻ろうとする。


「つっくんのいけず……」


 そうつぶやくとともに未来は露天風呂の淵にうずくまってしまった。 それに気づいた俺はすぐに未来のもとに駆け寄る。

 未来はただうずくまったのではなく倒れるようにしてだったため俺はすぐに未来を露天風呂から引き揚げた。


「おい! 未来! おいってば!」

「んん…… つっくん……?」


 とりあえず意識はあるようだ。 とりあえず未来を女湯の脱衣所まで運び目の前に扇風機を置く。


 これで良くなるといいんだが…… 幸い時間外で誰も来る心配がないから俺が痴漢で捕まることはないだろう。 それにしても女湯の脱衣所なんて初めて入ったけど男湯のとあんまり変わらないんだな。


「じゃあ未来、少し待っててな」

「うんー」


 俺は服を着替えフロントに氷をもらいに行った。 フロントでは快く氷を持ってきてくれてすぐに脱衣所に入る。


 女湯から入るしかないから誰にも見られてないといいなあ…… 変な勘違いはされたくないし……


「未来、氷もらってきたぞ」

「ありがとー」


 脱衣所にある小さいタオルで氷を巻き、額に置いてやる。 すると未来は気持ちよさそうにはにかんだ。


 これでひとまず安心だろう。 あとは未来の熱が冷めるまでここで待っていようかな。 

 そういえば今日は色々と頭を使うことが多かったな…… なんか眠気が……


 *


「……くん! つっ……ん! つっくん!」

「……んん? 未来か、熱は冷めたのか?」


 まだ眠いが俺は目を開け上を向く。


 ん? なんか目の前に二つの不自然な影が…… って未来さん!?


「ん? どうしたのつっくん?」

「俺の頭が乗っている柔らかいものは……」

「私の太ももだね」


 どうやら立場が逆転して俺は未来に膝枕してもらっているようだ。 そして未来は起きてからそのままなのか俺の視界には肌が多く見えている。


「未来、すぐに退くから服を着てくれ。 そしてまた今度もやってくれ」

「あ、服着るの忘れてたね。 ちょっと待っててね」


 俺は未来が元気になったことで安心しほっとして胸をなでおろしていた。


「つっくん? あっち向いててくれないかな…… 流石にまじまじと見られながら着替えるのは……」

「ああごめん! すぐに違う方見るから! っていうかここから出るから!」


 そう言ってすぐに外に出る。


「「あ」」


 扉を出てすぐの場所にいたのは……


「ひ、日向!?」

「え、海竜君!? なんで女湯から出てきたの!?」

「それには深いわけが……」


 あれ? この言い方まずかったか…… なんか日向が道端に落ちている犬のフンを見る目で見てくるんだけど……


「じゃあ女湯から出てきたわけを聞かせてもらおうかしら」

「それは……」


「つっくんおまたせー! いやー、さっきは暑かったね!」


 未来さん!? 余計ややこしくなってません!?

 ほら! 日向がお前らまじか…… みたいな目で見てるから!


「え、ええと。 私は邪魔だったみたいね。 じゃあ海竜君また明後日ね!」


 そう言うと日向は駆け足で去って行ってしまった。


 まだ誤解を解いていないのに…… 今度会ったら詳しく説明しないとな……


「日向ちゃんどうしたのかな? なんか焦ったように行っちゃったけど」

「さ、さあ。 何か勘違いでもしてたんじゃないのか?」


 俺だけが頭を悩ませながら部屋に戻ることにした。 

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