大学生と花火

「ごめんね、つい!」

「う、うん…… まあいいよ」


 唇を離した未来は頬を赤らめてそう言った。


 いや、可愛すぎんだろ! 浴衣姿も相まって俺もう死にそうだよ!?


「えへへ、つっくんとチューしちゃったね」

「ああもう、可愛いなあ」


 俺はこれしか頭に出てこなかった。 あれ? 声に出てた?


 本当に声に出ていたようで未来はさらに顔を赤らめてゆでダコのようになっている。


「つっくん!? 今のってほん」


 ヒュー ドォォォン


 未来が何かを言いかけた直後、展望台からすぐ横に見える夜空に大きな花が咲いた。 キスやら何やらで気を取られているうちに花火大会の開始時間になっていたのである。


 今、未来がなんて言ったのかも気になるけど聞かないでおこう。


「綺麗…… こんなの絶対忘れられないよ……」


 展望台が穴場だとは聞いていたがここまで近くで花火が見れるとは思ってなかった。 目の前で爆発する花火、一秒とたたず耳に届く爆発音。 今までに見たこともないような花火に俺と未来はキスのことも忘れ見入っていた。


 これは声を上げるのも分かるな…… 今までに見てきた花火の中でもダントツでトップに入るくらい綺麗だ……


「未来、来て良かったな……」

「うん…… 一生の思い出になるよ……」


 ふと俺は横を見てみる。 そこには当たり前の様に未来の横顔がある。 

 しかしその横顔がとても美しく見える。 


 花火のせいだろうか、こんなに未来って美人だったけ……


「未来……」


 俺は本人に聞こえないように名前を呼ぶ。


「出会えて良かったよ……」


 俺はそうつぶやき未来の頬に向かって顔を寄せる。


「ふうー! 綺麗だったねつっくん!」

「ふごっ!」


 俺の唇が未来の頬に触れる直前、花火大会が終わり勢いよく未来が振り返ってきた。 その際、未来の肩が俺のあごにクリーンヒットしたのだ。


「いたた…… ってつっくん大丈夫!?」

「あふぉがはふれた」

「え、なんてー?」


 顎が外れたんだよ!




「つっくん大丈夫ー?」

「おかげさまでな、まだ痛いけど」


 花火のあと、未来の浴衣を返しに行き俺は医師のところに行き顎をはめてもらった。 旅館の医師だったため日向に見られ鼻で笑われてしまった。


 くそ…… おぼえてろよ……


「なんかごめんね……」

「いやいや、俺こそなんかごめんな」


 うう、気まずい…… それよりキスしようとして顎が外れるなんて、かっこ悪すぎるだろ……


 気まずいまま俺たちはお風呂に行くことにした。 

 花火大会の後に色々あったためお風呂は貸し切り状態だった。 俺はその風呂に入り今日一日を思い出す。


 変な小説を書いたと思ったら急にキスをされて…… 今日は散々な一日だったな。


 コンコン


「ん? なにか扉から聞こえるような……」


 露天風呂に通じている扉からノックするような音が聞こえる。 掃除の人かな? と思い、俺は扉を開けた。


「あ、つっくん」

「え!? 未来!? なんで男湯の扉なんかノックしてるんだ!?」

「貸し切りみたいだしつっくん以外いないかなって」


 何がダメなの? と言わんばかりの顔で俺の方を向いている。


 ああもう可愛いな! 可愛すぎるな!

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