大学生の彼女

 部屋の中には未来だけではなく六実がいた。 え、泊っている旅館もいっしょなの?


「紗月遅いよー。 いくら仕事といっても旅行先で未来ちゃんを放っておくなんてどうかと思うよ?」

「悪かったな。 俺の代わりに未来のお守りをしてくれてありがとな」

「え、紗月がやけに素直! 未来ちゃん! 何か変ものでも食べさせた!?」


 おい。 俺が素直なのがそんなに変なのか……


「ただ疲れただけだよ…… それにしてもよくこの部屋がわかったな」

「フロントで教えてもらったんだ。 従妹ですって言ったら一瞬だったよ」

「そんな簡単に言っていいことかよ……」


 まあ従妹って言われたらしょうがないか。 それに六実なら悪意があるようには見えないだろうしな。


「それで仕事は終わったの?」

「ああ、早めに片付けてきたぞ」

「なら私は帰るね。 あとは紗月と未来ちゃんの二人で楽しんでー」


 そう言って六実は部屋から出て行ってしまった。 

 帰り際にまたねと言われたが、正直この旅行中には会いたくないな。


「行っちゃったね。 これからどうするー?」

「どうしようかな。 こんなに早く終わるとは思ってなかったし何も考えてなかったわ」


 夜で時間があれば近くで花火大会があるみたいだから行こうとは思っていたんだが、今は三時だしな……

 少し早いけどブラブラしていれば時間もつぶせるか。


「未来、花火大会が夜にあるらしいから行ってみるか?」

「え!? 花火大会!? 行くいく!」


 *


「つっくん。 ど、どうかな……?」


 公園で待つこと一時間。 ようやくやってきた未来は紺の地に桜の花の模様の浴衣を着ている。


「めっちゃ似合ってるぞ。 ちょっと写真撮っていいか?」

「え、一枚だけならいいけど……」


 絶対パソコンのホームにしよう、と思いすぐさま家のパソコンに画像を送る。 これで安心っと。

 それにしても未来は相変わらず桜が好きなんだな。


「あ、それ。 まだ着けてくれたんだな」


 俺は未来が着けている髪留めに見覚えがあった。 それは桜のガラス細工がついていて俺と未来が初めて旅行に行ったときに買ってあげたものだ。


「それを言うならつっくんもずっとブレスレットを着けてくれてるよね」

「ああ、これか。 ずっと着けているからかお守りみたいになってるな」


 俺がずっと着けている組紐のブレスレットがあるのだが、それは未来からのプレゼントでこれも最初の旅行でくれたものだ。

 こうやってお互いに大事していると思うとなんか嬉しいな。


「さて、浴衣も着たし会場へ行こー!」

「そうだな。 足元気をつけろよ」




 少し歩いて山の上にある展望台までやってきた。 未来は慣れない下駄だからか少し疲れてはいるがまだまだ元気そうだ。

 また、この展望台は穴場らしく人もそんなにいないようだ。


「つっくん。 急なお願いだったのに旅行に来てくれてありがとね。 やっぱりつっくん大好き!」


 展望台から景色を眺めていた俺は未来の方を向く。

 すると温かく柔らかい唇が俺の唇と触れ合う。



「……え?」


 未来さん!? まだ夕方だよ!? 周りにも人いるよ!?

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