大学生の本気

「か、海竜君。 一桁盛ったりしていない? 盛っていてもすごいのだけど……」

「盛ってなんかないぞ。 ついこの間に編集さんから教えてもらったばっかりだからな」


 俺の小説の「幼馴染との同居生活」は高二で書き始めた作品なのだが、この作品は俺のリアルが大きく反映されている。

 私生活をさらしているようで恥ずかしい気もするが普通幼馴染と同居なんてありえないことだからバレる心配はない、と思っていたんだけどな……


「私の好きな作品の作者が友達だっただけでも驚いたのにまさか百二十万部なんてね…… 私たちには夢のような数字ね……」

「人気なのはありがたいんだが日向みたいに身バレすることもあるから気が抜けないな」

「私のは本当に勘なのよ? 海竜君の言動が作品と似ていたり未来ちゃんが未玖に似ているなと思っただけよ」


 勘でも俺が海竜だって当てるのは相当難しいと思うんだけどな…… こんなことを話していたらいつまでたっても終わんないよな。


「その話は終わりにして、今日はどのくらい書けばいいんだ?」

「そうね、とりあえず一万字程度書いてもらえれば今日は終わりでいいわよ。 私たちの同人誌の巻末の予定だから」

「俺が巻末とはずいぶんと豪華じゃないか」


 俺の名がこうやって広がるのは嬉しいのだが腐敗系小説ということでペンネームは変えさせてもらった。 でも日向みたいに作風とかでバレたりしないかな……


「なんかごめんなさいね。 名前を変えているとはいえ百二十万部作家を巻末なんかにもっていっちゃって」

「まあいいってことよ。 フィギュアも作ってもらったんだし」


 拗ね続けていたら俺の部屋にだけなら置いていいって未来からお許しをもらったからな。 もう大満足よ。




「お疲れさま。 プロットからだったのに五時間で終わらせてしまうなんて…… 流石としか言いようがないわね」

「そりゃどーも。 未来のためにできるだけ早くしてやりたいなと思ってな」

「はいはい、リア充乙」


 そんな言い方ないだろ…… それに誰だって腐敗系小説を書けって言われたら早く終わらせるだろ。


「じゃあ俺は部屋に戻るけど次はいつだ?」

「んーと、明後日でどう?」

「りょーかい。 そっちもせっかく箱根に来たんだから楽しめよ」


 そう言って俺は部屋を出る。 サザンドラのメンバーは意外と普通の人ばっかりで驚いたな…… 腐女子とはいえども注意しておこう。 未来になんて言われるから分からないからな。


 *


 俺はすぐに自分宿泊部屋に戻り扉を開ける。


「ただいま! 速攻で終わらせてきた、ぞ?」

「あ、おかえり」

「おかえりつっくん!」


 そこには褐色の肌をした少女が未来とともにお茶を飲んでいた。

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