大学生の仕事

「こ、ここは猿も出るみたいだからきっと猿だよ」

「それもそうね。 混浴だから男でもいるのかと思ったわ」

「そ、そうだねー、私が来た時から誰もいなかったからねー」


 何とか物音に関しては誤魔化せたみたいだ。 でもこのままだと日向に俺のことがばれかねないな…… どうしよう……




「未来! このままだと他のお客さんも来そうだから何とか日向を連れ出してくれないか?」

「う、うん! わかった!」


 日向が露天風呂に来てから十分ほど経ちそろそろのぼせそうになってきた。 そんな俺に気づくわけもなく日向は未来と我慢対決をしている。

 ここで未来が退いてくれれば日向も満足して女湯に戻るだろう。 だから頼むぞ、未来。


「ねえ日向ちゃん」

「ん? なにかしら?」

「そろそろ限界なんじゃない?」


 なんでそうなるんだよ! それじゃ煽ってるのと同じだって……


「フフフ、私はまだまだいけるわよ?」

「うう…… こうなったら!」


 未来は俺を湯船に沈めた。 俺は咄嗟のことで驚いたが何をしたいのかすぐに分かったため暴れずに水中で息をひそめた。

 意図が伝わったことを確認すると未来は湯船から上がった。


「日向ちゃん、私の負けだよ…… もう上がって水風呂にでも行こー」

「ええ、そうね。 私も実は限界が近かったのよね」


 じゃあ素直に上がれよ! とツッコミそうになったがここで全部バレるわけにはいかないので口に手を当てて男湯の方へと泳いでいった。




「色々と危なかったな……」

「そだねー。 フルーツ牛乳ありがとね」

「ああ……」


 未来に感謝すべく浴場の外にある自販機でフルーツ牛乳を買ってあげた。 これでチャラになるのだから俺の彼女は最高である。


「あら? 海竜君もお風呂に入っていたのね。 露天風呂に来ればよかったのに」

「あ、ああ。 明日にでも入ろうかな、あはは……」


 誰のせいで露天風呂を楽しめなかったと思ってるんだよ! まあそんなことは置いておいて。


「日向、明日のことなんだが……」

「ああ、九時くらいに私たちの部屋に来て。 未来ちゃんも連れてきてもいいけど私たちの空気についてこれるか心配よね……」

「絶対に連れてこないからな」


 未来まで腐敗系女子になったら俺もう生きていける気がしない…… 目の前の誰かさんが雄二と俺でカップリングしやがったおかげで何度吐きかけたか……


「あら、残念ね。 それじゃあ明日待ってるから今日はお二人で楽しんでね」

「変なお気遣いどーも。 そっちも徹夜して腐女子談義とかはすんなよー」


 なんか去り際にビクッとしていたけど気のせいだろう。 流石に旅行に来てまでそんなことはしないだろうな。


「じゃあ俺たちも部屋に戻るか」

「だねー」


 部屋に戻り俺と未来は美味しいご飯を食べ、俺は疲労から先に眠ってしまった。 未来と二人っきりなのに何もないのか? と思った奴いるだろ。 同居して二年もたつとこんなもんだぞ。


 *


「それでは今日のゲストの海竜先生よ」

「「おー! 初めましてー!」」

「あ、ども」


 俺は十時過ぎに日向の部屋に向かった。 ドアをたたくと日向が出てきて俺のことをメンバーに紹介してくれた。


「まさかラノベ作家の海竜先生が書いてくれるなんて……」

「いつも読ませていただいています! サイン良いですか?」


 こんな俺でも一部ではモテモテのようだ。 自然と口が緩んでしまう。 

 おっと、浮気じゃないからな。


「はーい、絡まないー」

「なあ日向、本当にここで書くのか?」

「え、だめだった? できればこれからの創作活動の参考にしたいから見させてもらいたいのだけど」


 なるほどな。 俺なんかで参考になるのなら協力してやるか。


「そういえば海竜君。 あなたって今、何部なんだっけ?」

「合計なら百二十万ってところかな」


 ……え? なんかシーンとしちゃってるぞ。


「「「えええ!? 百二十万!?」」」

「う、うん。 過去作も含めるとだけど……」


 なんか俺、変なこと言ったかな……

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