大学生の入浴中

 夏休み初日、箱根観光を楽しみ旅館に戻ってきた。 やっぱり俺は荷物持ちとなりへとへとになってしまった。

 やっぱり運動不足にはつらいな……



「じゃあつっくん、覗いちゃだめだよー」

「覗くかバカ」

「えー、ほんとに覗かないの?」


 毎度恒例なのだが温泉に来るとなぜか覗きを急かしてくる。 そんなに俺が捕まってほしいのか? とも思うのだが俺はいつものようにスルーして男湯に入る。




「うわあ、広いな……」


 俺と未来は旅行の時は五時前にはお風呂に入る。 人に会わずゆっくりと楽しむためだ。

 それにしても効能の違うお風呂が六つもあるって書いてあったからな。 どこから入ろうかな……


「よし、誰もいないな」


 俺は誰もいないことを確認してシャワーを浴びる。 次にどのお風呂に入ろうかと思っていると露天風呂の張り紙が目に入ってきた。

 どうせ俺しかいないんだし露天風呂から入ってもいいかな。


「露天風呂は夜景がきれいなんだっけ。 まだ日は出てるけど行ってみるか」


 外への扉を開けて露天風呂に浸かる。 思ったより温度は高かったがすぐに慣れて気持ち良く入れている。


「ふうー、疲れた体に染みるなあ」

「なんかおじいちゃんみたいだね」


 ん? なんか今聞こえちゃいけない声がしたような……

 いや、そんなはずないか。 きっと疲れてるんだな、うん。


「無視はないよー。 おーい」


「……えええええええ!? なんで未来がここにいるんだ!?」

「あ、やっと気づいた」


 ここって男湯だろ!? まさか未来の方から覗きに来たとか!? いや、もうこれ覗きとかのレベルじゃないよな!

 それとなんで普通に露天風呂に浸かっていられるんだよ!


「な、なんでここに未来がいるんだ!?」

「え、だって露天風呂は混浴って書いてあったよ? それでもしかしたらと思って覗いてみれば案の定つっくんがいたの」

「え、そんなこと書いてあったか?」


 俺は焦って看板を確認してみる。 あ、確かに端っこに書いてある……


「まじかよ……」

「なんだー。 つっくんは混浴目的で入ってたわけじゃないんだ」

「当たり前だろ! その、未来だっているのに……」


 俺は言っていて恥ずかしくなってしまった。 そんなことよりほかの人が来る前に早く出てしまおう!


「悪い未来、俺はもう出るわ」

「えー、もうちょっと楽しもうよー」


 そんなこと言ってられるか。 他の人が来たらどうするんだよ……

 そう思い俺は急いで露天風呂から上がろうとする。 すると……


「これはすごいわね」


 扉を開けて女湯から出てきたのは日向だった。 日向はタオルこそ巻いているもののまな板ゆえ男と錯覚しかねない。


「なんか急にイラっとしたわ。 なんなんだろう」


 露天風呂から出ようとしたところに入ってきたため俺は驚いて未来の後ろに隠れてしまった。

 まずい、隠れているところを見つかれば余計に面倒くさいことになりそうだな……


「なあ未来、日向が上がるまでしばらく隠してくれ」

「もうしょうがないなあ。 そのかわり変なところ触らないでよ?」


 小声で未来と作戦を立てた。 まだ時間が早いため他の宿泊客が来る可能性も低くこのまま日向が立ち去るのを待つことにした。


「あ、未来ちゃん。 あなたもこの景色を楽しみに?」

「う、うん! 日向ちゃんも?」

「ええ、それにしても混浴なんだから海竜君も来ればいいのに」


 え!?

 俺は驚いて音を立ててしまった。 まずいぞ……


「ん? 未来ちゃん、他に誰かいるの?」

「え、えーと……」


 どうしよう! と言っているのが背中から伝わってきた。

 俺だってどうしようだぞ! まずいまずい、日向に見つかったら絶対ネタにされる……

 誰か助けてくれえええ!

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