大学生の事情

「えっと、普通に旅行で来てたんだけど紗月を見かけたもんで後をつけて来ちゃった」

「なんで夏に箱根に来るんだよ…… もっといいとこあったろ……」


 六実が言うには半年近く前から友達と旅行の約束をしていたらしい。 半年前ってまだ六実が俺んちの隣にいた時じゃねえか。

 それにしても六実もだいぶ変わったな。 六実といえばショートの髪にスポーティーな服装のイメージだったが今の六実は髪もセミロングになり白のワンピースを着ている。


「なんか紗月ってば私のことじっと見てどうしたの? もしかして惚れた?」

「なんだ、バカは変わってないのか。 いきなり大人しそうになったのに中身がそれじゃな」

「つっくんー、悪口言わないのー」


 従妹同士のいじりを遮られた。 ああもう止め方もかわいいなぁ! こいつ!


「六実ちゃんー、久しぶりなんだけど話すのは夜にしよ? 今から観光行ってくるからー」

「おお、なんか悪いことしたね。 どうぞどうぞお二人で楽しんできてくださいな」


 ヤキモチを妬いてくれる未来に惚れ直し六実と別れ俺たちは駅の方に向かうことにした。




 駅の方には箱根山に向かうバスや芦ノ湖の遊覧船の案内などがあり、突然来てしまったが観光をする分には大丈夫そうだ。


「未来はどこか行きたいところはあるか?」

「私が行きたいところなんてつっくんなら分かってるでしょ?」

「まあな。 いつも通り繁華街だろ?」


 未来は旅行となるといつも繁華街を先に回る。 お土産なども買うのだがお店の人に観光名所を聞いた方が本当に思い出に残る場所を見つけられるから、と本人は言っている。


「せいかーい! 流石はつっくんだね!」

「そりゃあ何回も旅行について行ってたら覚えるわ」


 これで何回目なんだろう。 未来とは高二で同居が始まったのでたった二年の間にもう四回くらい旅行に行っていることになる。 


「じゃあ町へ向かうか。 ちょうどもうすぐ昼だしな」

「あいさー! 今日のご飯は温泉饅頭だー!」

「それご飯じゃないだろ……」




 繁華街に入り俺たちは本当に温泉饅頭を食べまくった。 意外にも種類が多く飽きることはなかった。


「いっぱい食べたねー。 お腹いっぱいでもう動けないー」

「なんで俺の二倍近く食ってまだ余裕そうなんだよ……」

「つっくんはヒョロすぎるんだよー。 今度からちょっとずつご飯の量増やしていこうかな」


 なんでみんな俺を太らせようとするんだ? 杏樹も俺がカレーを好きなのを知っていてご飯がカレーの日には必ず呼んでくれるし……

 ありがたいけど太りたくはないんだよなあ。


「これおいしかったから杏ちゃんとかにも買って行ってあげよー! おじちゃん! これ二箱お願いー!」

「二箱も買うのか!? 初日からそんなに買ってあとで郵送とかはやめてくれよ?」

「大丈夫! お土産のために大きいキャリーできたんだから」


 やけに大きいキャリーバッグで来たのはそのためか…… ていうかそのキャリーバックは俺のなんだけどなあ。


「あなたたち見る目があるわね。 その温泉饅頭は夕方には売り切れるほど人気なのよ?」


 突然声をかけられびっくりしたがよく見ると納豆眼鏡女子だった。


「あ、日向か。 聖地巡りは終わったのか?」

「今日の分はとりあえずね。 それより海竜君、明日は頼むわよ?」


 すっかり忘れてた。 旅館の部屋を取ってもらう代わりに約束してたんだったな。


「未来すまん。 明日は部屋から出れそうにないみたいだ」

「やっぱり小説の締め切り近かった?」

「まあな。 明日中に終わらせるから今日はとにかく楽しもう」


 明日はおそらく缶詰にされて書き上げるまで開放してはくれないだろう。 よし! 今のうちに楽しんでおくか!


 そうして午後も明日のことをなるべく考えずに繁華街で食べ歩きなどを楽しんだ。

 はあ、なんで旅行に来てまで腐敗系小説を書かなくちゃいけないんだ……

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