大学生の友達
「おーい未来ー。 起きろー」
「んん…… 今起きるー」
今日は俺の方が早く起きていた。 まあそれにも理由はあるのだが。
「つっくーん、パソコンとってー」
「まだ時間あるけどもうやるのか?」
実は今の時間は朝の四時で俺たちにとっての正念場でもある。 今日は昨日から準備していたレポートの提出日である。
それゆえ一字のミスも許されずこうして未来とお互いのレポートを読み合う、ということをしようと二人そろって早起きをしたのだ。
「つっくん! ここ、変えるが帰るになってるよ!」
「気付かなかった…… ありがとう未来! 今すぐ直す!」
こうして誤字や言い回しなどを直し合って一時間、ようやくレポートが完璧に仕上がった。
「なんか懐かしいね! こうやってつっくんのレポートを読んでいると受験の時を思い出すなあ」
「あの時はとにかく追い込まれていたからな。 正直読んでくれるなら誰でもよかったんだけど」
ここでいう受験はおそらく大学受験の際の小論文のことだろう。
俺はラノベ作家をやっているからと見栄を張っていたが小論文が一番の難関だった。 ラノベのように足早に話が進むのではなく一つのことについて永遠と書かなきゃいけないからな。
「誰でもいいってひどいよー。 もう、つっくんの浮気者」
「……はいはい。 未来さんのおかげですー」
「むふふー。 よろしい」
未来さんは褒められてご満足のようだ。
「もうそろそろ出るぞー、準備できたか?」
「うん! 私はいつでも行けるよー」
時間は七時になりそろそろ家を出る時間だ。
「えっと、鍵は持ったしパソコンと
「つっくんどうしたの?」
「いや、何でもない。 忘れ物がないか確認していただけだ」
一番忘れてはいけない
*
「あれ? あんまり人数揃ってないみたいだね」
「まあ俺たちが早いんだろ。 ゆっくり待つか」
「あいさー!」
授業の開始時間より三十分ほど早く着いてしまったからか講義室には俺たちを含めて五、六人だけだ。
俺はその中から目当ての人を探してみる。
「あ、いた」
じっと俺のことを見ている女子と目が合った。 するとその女子は席を立ち勢いよくこっちに向かってくる。
「海竜君! 君がいつ来るか分からないから二時間前から待っていたよ!」
「二時間前!? どんだけ楽しみにしてたんだよ……」
俺の顔を見るや猪ばりの突進で向かってきた眼鏡女子は
こいつの言う海竜とは俺のペンネームで名字の開隆の同音異語だ。 なお俺がこの名前でラノベ作家をしていることを知っているのは未来と日向、それに佐藤さんだけである。
「はいよ、約束の
「うふふ、わかっているわ。 ではこちらも約束のものを……」
俺は彼女に茶封筒を渡し、代わりに彼女から少し大きめのビニール袋を受け取る。
これだ、これを楽しみにしていたためここ一か月ほど寝不足だったのだ。
俺はビニール袋の中身を確認する。 中にはオーダーメイドで作られた
「流石は人気同人サークル、
「でも海竜君が未来ちゃんをもとに未玖を書いたなんてね…… 普通に作品を読んでいても気づかなかったわ」
そうだ、俺の書いているラノベに出てくるメインヒロインは未来をベースに作られているのだ。
キモイとか言うなよ? この作品は俺が書きたくて始まったわけじゃないからな! そしてその幼馴染をもとにしたフィギュアと引き換えに俺が渡したもの、それは……
「私の方も確認したわ。 これで今年の夏コミは安泰ね。 それに何より私が世界で一番早く楽しめるなんて…… ぐへへ」
「おーい、顔に出てるぞ腐敗系女子さーん」
腐敗系女子、すなわち彼女は腐女子である。 そして彼女が握りしめている茶封筒は俺がサークルにフィギュアと交換条件で書くことになった腐敗系小説である。
彼女がどう楽しむのかは知らないが登場人物が男だけ、というのも書く練習になったので意外にもありがたかった。
「ぐふふ…… おっと、ごめんなさい。 では大事に預からせてもらうわね」
「おうよ、お互いにいい取引だったな」
「ええ、感謝するわ」
そう言うと彼女は茶封筒を大事そうに持って少し前まで座っていた席に戻っていった。
さて、あとは発表会だけか……
なんかこいつの相手をしていただけでドッと疲れが湧いてきたな……
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