今日が最後の日でも

綾瀬七重

第1話

イルミネーションが輝いて、雪が反射する。

素晴らしく幻想的でも今日が最後の日であることに変わりは無い。

ぬるいミルクティーをひとりで飲んで君の残したコーヒーの紙カップとミルクティーのマグを片付ける。

私はいつも2人で待ち合わせしたカフェを出た。

きっともう戻ってくることはないだろう。

私が君の前で泣くのはあまりにもずるいから、店を出てひとりで泣いた。


君と初めて会ったのもこのカフェだった。

街の中で静かにぽつんと、でも存在感を表すカフェだった。

厚い窓ガラスの重厚感と温かな甘いミルクティー、手作りのマフィンが好きで大学に入ってからよく来ていた。本を読んだりレポートを書いたり。

時間は静かに流れていつも心を穏やかにしてくれた。そんな中で出会いは訪れた。大学1年の12月の初めに私の座った席に本が置かれていた。他に店の中に客がいないことから落とし物だと思って拾い上げた。大学の図書館の本のようで最近にしては珍しくも貸出カードが使われている本だった。貸出カードの名前を見ている時店に本を探しに来たのが君だった。これが出会いだ。ベタな出会い方だけど。

そこから付き合うまでに時間はかからなかった。

同じ大学だけど学科が違うからいつもこのカフェで待ち合わせした。何時間もこのカフェで話をした。

沢山笑いあったし、沢山このカフェで喧嘩もした。でもいつも一緒だったのだ。

私はミルクティー、君はブラックコーヒー。

お互い社会人になっても変わらなかった。これが平和で「いつもの」だった。


変化を起こしたのは、私だ。

ずっと念願だった留学のチャンスを得たのだ。

これは君を待たせるにはあまりにも長いことを私は知っていたし、いつ帰ってくるのかは知らなかった。

だから今日が最後の日にしたのだ。

君を私が縛ることはしたくないし、君を待たせたくなかったからだ。2人で歩いてきた道を7年間で初めてお互いに別れて歩くことにした。

君はきっと別れることに同意したのではなく、私を見送ることに同意したのだ。

でも私が泣くのはあまりにも勝手でしょう?

だからひとりで泣くのだ。

最後の日である今日も君が好きで大切だった人である事を忘れない為に。


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今日が最後の日でも 綾瀬七重 @natu_sa3

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