第6話:場末

 私の唄に涙を流し懐かしんでくれる男達がいる。

 最底辺で働く男達が集まる安酒場、ここには女がいない。

 女がいない場所なら、まだ私の演奏も唄も喜んでもらえる。

 安酒場に集まる男達が祝儀に渡せる金など小銅貨一枚くらいしかない。

 それでも、女がいる酒場よりは稼ぎになる、それがこの国の現状だ。


「よお兄ちゃん、いい曲だった、本当にいい唄だった。

 若い頃に死に別れたあいつを思い出したよ、一杯飲んでくれよ」


 とても不味い安酒なのだが、乏しい酒代から奢ってくれるという想いを、無視する事などできない。

 

「ありがとうございます、遠慮せずに飲ませていただきます。

 永遠の恋人に、乾杯!」


 俺の言葉に、老齢の男がむせび泣きだした。

 死に分かれた恋人を思い出して泣いているのか?

 それとも今の境遇に悔し涙を流しているのか?

 俺にはこの男の本心は分からないが、奢ってもらった酒代分の恩義がある。

 追放前にもらっていた金とは比べものにならないが、重みで言えば酒代の方が心にずしりと来る。


「なあ、聞いたか、若の奴が臨時税を徴収すると言っているようだぞ」


「何だと、ついこの前、女が王家の舞踏会に着ていくドレスが必要だと、領都中の家から集めたばかりじゃないか!」


「それが今度はベゴニア王国の舞踏会まで行かなければいけないから、前回の三倍の臨時税を徴収するだってよ」


「若の奴、女に狂って俺達を殺す気か!」

 

 演奏が終わって、宿の戻ろうとする私の耳に、最後まで粘っていた若い男達の会話が耳に入って来た。

 若というのは、神殿の祭壇を封鎖している領主の息子の事だろうか?

 だとすれば、詳しく聞いておかなければいけない。

 日数をかけて、金にならない酒場を巡り、息子の情報を集めてきた。

 ここで大きな臨時税を集めるなら、襲撃する好機だ!


「それは大変だね、貴男達は臨時税が課せられても大丈夫なのかい?」


 俺は二人のうち声をかけやすそうな黒髪の男に声をかけてみた。


「大丈夫なモノかよ、以前の臨時税だけでも満足な食事ができなくなったんだ。

 三倍もの臨時税がかけられたら、それこそ何日か食事を抜かなきゃならねえ」


 黒髪の大事は憤慨して色々と話してくれたが、領主の息子は、前はそれほど悪い男ではなかったようだ。

 他領の次男と恋仲で、正式な配偶者として迎える話も進んでいたそうだ。

 それが、友好関係を結びたいと、ベゴニア王国から使者がやって来て、その使者一行の中にいた女と恋仲になり、今では情けなくも女の歓心を買おうと言いなりになっているそうだ。


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