第13話 インフルエンサー

 少し時は流れて……1週間後。


「おはようございまーす」

 俺は目の前にいる『そいつ』に話しかけた。


「あっ……」

 黒嶺だ。


「今日は月曜日の代わりか?」

「は、はい……」

「?」

 なんだか様子がおかしい。体調でも悪いのか?


 トクン……トクン……


(どうして……灰島さんは普通に話しかけているだけなはずなのに、どうして緊張するの……?)


「おーい、黒嶺?」

「え!?」

「……もう行っていいのか?」

「あ、はい。どうぞ」

 俺は少し様子のおかしい黒嶺を放っておいて、校舎の中に入る。何かあったのか?それとも俺が何かしてしまったのか……?




 昼休み……


「……」

 スマートフォンを眺める赤城。


「お前、メシ食いながらのスマホは行儀が悪いだろ」

「あぁ、ごめん、いや、これ見てよ」

「ん?」

 そこには、こんな動画が載っていた。


【ラウンドテン】アイスクリーム食べ比べしてみた!【トップ10】


 そこにはラウンドテンの飲食スペースでアイスクリームを食べている動画だった。


「結構種類あったんだねぇ。あたしもっと見とけばよかった」

「あ、キャラメルおいしそうですよね!」


 ラウンドテンのアイスクリーム……そして10種類……どこかで見たような。


「それ、動画撮ってる奴なんて名前なんだ?」

「本名じゃないと思うけど{ホワイトナイト}って書いてあったよ」

「ホワイトナイトねぇ……白い騎士……もしくは白い夜か。てか本名なわけないだろ」

 すでに再生回数は10万回を超えている。割と売れっ子なんだな……


「さて、3個目の試食にまいりま~す。次は……イチゴ!」

 3本、指を立てて言う女。……女……だよな。声的な意味で。

 まぁ、特に気にすることもないだろう。最近の流行りはよくわからない……


「……!?」

 俺はその時、関連動画にあるひとつの動画を目撃した。


【ようこそ】ヴァンパイア喫茶を体験してみた!【アビスへ】


 ヴァンパイア喫茶!?アビス!?これって……


「……!」

 学食を見回すと、スマホを片手に黒嶺がガタガタと震えていた。……見てしまったのか。

 見てしまったと言っても、黒嶺が映っているわけがないだろう。すでに50万再生もされてるんだし。

 ……ないん……だよな?


「あ、がり勉君、この動画見たいの?」

「え?あ、いや。見るにしても自分で見るからいい」

 ……あまり悟られないようにしないとな……




 放課後……


「さてと、今日も図書室に……」

 と、ノートをまとめ、カバンに入れた時だった。


 ピンポンパンポーン……


「2年D組の灰島君、2年D組の灰島君、職員室まで来てください。2年D組の灰島君、2年D組の灰島君、職員室まで来てください」


「え?」

 職員室に呼ばれた!?いや待て、俺が職員室に呼ばれるいわれは……いわれは……


 ……ダメだ。ありすぎて分からん。


 とにかく早く向かわないとまずそうだ。


「悪い。先図書室行っててくれ」

「うん。緑川さんには伝えておくから」




「……」

 職員室の前に来ると、そこに黒嶺が立っていた。何故かものすごく、殺気立っている。


「く、く、く、黒嶺さん?俺を呼んだのって……」

「……」

 『ついてきてください』と言わんばかりに手招き。俺は黒嶺についていくしかなかった。


「なんだよ急に……」

 人気のない校舎裏で、黒嶺は立ち止まった。


「あぁ、もしかしてこの間の事か?あれは謝るから、俺用事が」

「……」

 いきなり俺の肩を掴んできた。


「え?」

「お願いです、灰島さん……!助けて……!」


 階段に座って話を聞くことにする。黒嶺の座る場所にはタオルを敷いておいた。


「この動画……見ましたよね」

「あぁ。昼赤城が見てたやつだよな。それがどうしたんだよ」

 慣れた手つきで、動画のシークバーを動かす。その動きは、8分31秒で止まった。


「ここです」

「ここ?ここがどうかし……た……!」

 目を見開いた。そこに映っていたのは黒いツインドリルヘアーで、頭の上にティアラのような物を付けた女……の、後ろ姿だった。


「これ、お前だよな……?」

「自分の後ろ姿なんて見間違えるはずがありません。その日シフトでしたし。4連休の初めの日と最後の日がシフトだったのですが、初めの日以外は何故かものすごく人が多かったらしくて、昨日もそうだったんです。どうして急に人が増えたのかと思ったのですが……」

 うつむきながら話す黒嶺。


「それだけならまだよかったんですが……」

 今度はSNSを開くと……


『あれ?この人どこかで見たことあるような』

『これうちの学校の生徒じゃね?wwwこんなとこで何やってんだよwww』

『俺も血を吸われたい!特にこの女の人めっちゃタイプだわ!後ろ姿だけだけど!』


「おいおい……」

 ほとんどの書き込みが、黒嶺(の、後ろ姿)に対する書き込みばかりだ。


「これでは、私の正体がバレるのも時間の問題です……そうなったら私……私……」

 珍しくすさまじいほど焦っていた。……それもそうだろう。風紀委員がこんないかがわしい姿をして、そして接客業をしていたなんて学校にバレたら、風紀委員はお役御免。最悪停学だ。

 それに動画の再生回数を見るに、このホワイトナイトはインフルエンサーだ。放っておいては、さらに拡散されていくだろう。

 普段なら黒嶺は放っておけばいいと思えるような立場なのだが……


「じゃあ、どうするんだよ」

 俺は黒嶺を助けることにした。


「……!助けてくれるんですか!?」

「まぁお前がわざわざ俺を指名するほどなんだ。頼られるのは嫌いじゃないしな」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 何度も頭を下げる黒嶺。

 俺はもう一度その動画を見る。……手掛かりになるのは、ホワイトナイトと言うハンドルネーム。そして……

 この動画だ。


【ラウンドテン】アイスクリーム食べ比べしてみた!【トップ10】


 この動画が撮影されたのがいつかはわからないが……いや、多分あの日のはず。


「灰島さん?その動画が何か……」

「まぁ見ててくれ」

 音量を上げ、じっくりと見る。

 ……少し、聞き覚えのある声が聞こえる……


『……アイス、たまんないね~!』


 これは……赤城の声だ。遠くから聞こえて聞こえづらいが。

 となるとやっぱりあの時覚えていた違和感。間違いない。


 ――ボケっと歩くな


 あの女がホワイトナイトだ。……さらに動画を色々探してみると……


【おいしいし】うちの学食の牛すき定食が破滅的においしい話【財布にやさしい】


「……黒嶺。牛すき定食は好きか?」

「え?好きですが……それが何か?」

「牛すき定食を置いてある学校って、ここ以外にどこがある?」

 色々検索する。


「……この学校だけみたいです。それがどうしたんですか?」

「多分ホワイトナイトは……この学校の生徒だ」

「え!?」

 俺は動画で見た牛すき定食の話とアイスの話。そして昨日それらしき人物にすれ違った話をした。

 黒嶺は最初は信じていなかったようだが、徐々に動画を見て信用を取り戻していく。


「白いウェーブかかった髪……もしかして白枝さんでしょうか」

「白枝?」

「はい。白枝 すず(しろえだ すず)さんです。2年A組の生徒で、確かボクシング部所属の」

 それを聞いた俺は、すぐに2年A組の教室へと足を向けた。黒嶺が慌ててついてくる。




「ひぃ……ひぃ……ひぃ……」

 校舎裏から教室まで、結構距離があった。


「は、灰島さん、大丈夫ですか……?」

「お、お前……結構、体力あるんだな……」

「灰島さんがないだけでは……?」

 さりげなく痛いところを突かれた。


「えっと、ここですね。私、話を聞いてきます」

 黒嶺がクラスの中に入る。……まぁ、風紀委員だし入りやすいか。俺よりは。


 ・ ・ ・ ・ ・


 しばらく経って、黒嶺が教室から出てきた。


「もう帰っちゃったみたいです」

「そうか。次は部室だな」




「ぜぇっ……ぜぇっ……」

「は、灰島さん、大丈夫ですか……?」

 息を整える。……体力つけよう。本当に体力つけよう。


「とりあえず、私聞いてきます」

 と黒嶺が部室に入っていく。それと入れ替わるように、


「あれ?がり勉君?」

 赤城が通りかかった。


「なっ!?赤城!なんでこんなとこに!?」

「なんでって……バスケ部の部活もこっち方面だからだよ?ほら、2週間後中間テストだから、今のうちにたっぷり練習してるんだよ。……でも、まさか黒嶺さんと一緒なんて……」

 あぁ、それで青柳は……


 ――緑川さんには伝えておくから


 あの時赤城の名前を出していなかったのか。


「あ、そうだ。白枝 すずって女の子、知ってるか?お前のクラスメイトだろ?」

「すずっち?うん、知ってるよ。ボクシング部の中にいなかった?」

 と、そこへ黒嶺が出てくる。


「赤城さん?」

「あれ?黒嶺さん?どうしたの?」

「かくかくしかじか!」

「それじゃ分かんないよ!」

 若干のデジャヴを感じたところで、出てきた黒嶺は、首を横に振った。


「部員のみなさんも、今日は見ていないようなんです」

「そうか……参ったな……」

「え?すずっちに用があんの?」

 すると、赤城はスマートフォンを取り出した。


「……」「……」


((あれ?最初からこいつ(この人)に頼んどけばよかったんじゃ……))


「あ、もしもし?すずっち?うん。お疲れ~。今何してるの?うん。うん。え!?本当!?うん!行く行く!」

 すぐに電話は切れた。


「駅前に気になるクレープ屋があったから、そこにいるって!あたしも行くよ!」

「そうですか!それはありがたいです!友達である赤城さんが来てくれるなら」


「お前練習どうすんだよ」


 ・ ・ ・ ・ ・


 


 ……結果、黒嶺と2人で行くことになった。


「うわあぁぁぁん!あたしのクレープ~!」

 すまん!今度おごるから!




問13.『他人の悪事や失策の責任を負ったり、損な役回りを引き受けること』と言う意味があることわざを答えなさい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る