第12話 クアッドリセップス

「てかお前ら、図書館で勉強するって言ってなかったか?」

「それが図書館に行ったんですが……」


──────────────────────


「おめでとうございます!当図書館、100万人目の利用者です!これを記念してラウンドテンスポッティアフリーパスペアチケットをプレゼント!」

「……」「……!!」


──────────────────────


「でも肝心の図書館が座れないほど人でいっぱいで……そんな時にここを見つけて、せっかくだし遊んでいこうかなと」

 なんで2択目が遊びに行くなんだ。と言うのはさておき、思わぬ偶然があったものだ。

 2人の私服を改めて見てみる。青柳、緑川、共に普通の女の子と言う感じ。しかし青柳、スカート若干短くないか……?って、女の子のこんな場所ばかり見るなよ俺も!


「……私は出来れば1階に行きたかった」

 1階……ゲームが多く置いてある場所だな。さすがゲーマー。


「そうだ先輩!これやりませんか?」

 ロデオマシンを指さしながら緑川が言う。


「さっきお前がやった奴だな」

「あ、あはは……22秒しかもちませんでした……」

 そんなに難しいのか……?少し興味が出てきた。


「じゃ、勝負しよ!一番耐えられなかった人がアイスおごりね!」

「なっずるいぞお前!絶対お前が勝つってわかっててやってるだろ!?」

「まぁね!」

「悪びれろよ!」

 とりあえずおごりだけは避けたいところ……赤城との対決ならさておき、他に2人もいるんだ。

 なら……取るべき行動はひとつ。


「とりあえずまず、じゃんけんで乗る順番を決めるか」

「いえ、あたしが最初に乗ります」

 と、いきなりの立候補の緑川。


「えっと……いいですか?」

「あ、あぁ。いいぞ。残りでじゃんけんするか」

 面食らったが、とりあえずじゃんけんの結果、2番目が俺、3番目が赤城、最後が青柳、


「じゃ、まずあたしから」

 ロデオマシンにまたがり、ふうっと息をつく。


「えっと、レバーを引いて……それっ」

 マシンが動き出した。緩やかな縦の動き。捻じれるような横の動きも混じり、中々動きは本格的だ。


「こ、ここまでは何とか……」

 10秒ほど経つと、


「うわあ!」

 急に動きが激しくなる。それでも何とか耐えようと腰をひねる緑川だが……


「ぎゃ~!」

 まるで乗るのを拒否されるように、あっさり落ちてしまった。記録は18秒。


「まぁ、トップバッターだから仕方ないよね。次、がり勉君ね」

「……」

 け、結構ヤバい動き方するんだな……最悪酔うぞ俺……

 ガチガチになりながら、マシンにまたがる。


「レバーを握ったらスタートしますよ!」

「レバーって……これか?」

 俺はつい確認する意味合いでそのレバーを握ってしまった。


「うおっ!?いきなり動き出すじゃないかこれ!?」

「だからレバー握ったらスタートしますよって言ったのに!」

「待て!まだ心の準備って奴が……どわ~!」

 記録、6秒。


「「「…………」」」

「やめろ!その哀れみたっぷりな目で俺を見るな!てか、今のは確認しただけだからいいだろ!?……ダメ?」

「次、あたしね」

「無視はやめて!一番やめて!」

 若干傷付いた俺を無視して続けようとする女3人。よし。アイスおごる準備でもしとくか。


「灰島君。大丈夫」

「え?」

「私……カウガールに転生できなかった時点で詰んでるから」


 シャキーン!


 あ、いや、意味わかんねぇ。


「よし、行くよっ!狙うはウエスタンのカウガール!」

 レバーを握ってから、しばらくはゆったりとした動きが続く。その間赤城は余裕があるのか、こちらに向かって手を振ったりして遊んでいる。

 おいおい、そんなことをしていると……


「うわっと、ホントだ」

 ほら、急に暴れ方が激しくなって……


「ちょっこれっ……すごっいよっ……!?」

 それでも赤城は必死にレバーを持って……も、持って……


 ~脳内フィルター発動~


 ――んっ……あっ……

 ――こらっ激しすぎだよっ……

 ――ちょっきっつい……

 ――くうぅっんっ……!


 ……な、なんだ?この……よからぬことをやってる感じ……


「ふあぁっはぁっはぁっはぁっ」

 ロデオマシンが停止し、俺はふと我に返る、マシンの上にはには汗でびっしょりで、顔はほんのりと上気している赤城の姿が。どうやら最後まで耐えきったようだ。


「す、すごいです赤城先輩!最後までクリアしましたよ!」

「はぁっ……はぁっ……これ……結構きついね……」

 いまだに呼吸が乱れる赤城。息をゆっくりと吸っては吐き、落ち着こうとする。


「……あれ?なんで顔赤くなってるの?がり勉君……」

「う、うっさい!」

 落ち着け。高々女の子が遊んでいるだけだろう。ごくごく普通の光景だ。


「……私、やらなきゃダメ……?」

 赤城の大記録を前に尻込みする青柳。まぁ気持ちはわからんでもないが……


「せっかくだし青柳先輩もやりましょう。大丈夫です。仮に失敗しても笑いませんから」

 いやアイスもかかってるんだけどな?


「ん……」

 仕方ない感じでロデオマシンにまたがる青柳。


「……とあるゲームってこんな感じの事を毎回やってるのかな。双剣とかで」

「何言ってんだお前。とりあえず俺は超えてみせろよ」

「大丈夫。それくらいは……」

 レバーを握る。ロデオマシンが縦に動きだした。


「わっ」


 ドスン。


 瞬間落下。記録2秒。いや、逆に天才的じゃないか!?


「おい、青柳!?」

 顔面から床に落ちた。普通に危ないぞ今の……


「大丈夫か!?」

「だ、大丈夫……」

 変な落ち方をし、多少頭がぼーっとするようだが、特にケガはないようでよかった。

 でもこいつ……運動が出来ないって次元を超えてるな……


「てことで、最下位はりんりんね!あたしチョコミント!」

「じゃああたしはバニラで……」

「むう……」

 青柳は頬を膨らませる。そういやこいつ、金持ってないしなあんまり……仕方ない。


「あー、やっぱ俺払うわ」

「え?」

「さすがに女の子に金払わせるわけにはいかないだろ。元々青柳いなかったら俺がぶっちぎりで最下位だしな」

 その言葉に青柳は申し訳なさそうな顔をして、


「……ありがとう」

 と、照れながら俺に言った。




「えっと、青柳がイチゴ、赤城がチョコミント、緑川がバニラ。俺は……」

 と、飲食スペースの受付に向かっている時だった。


「!?」「……!」

 死角から現れたウェーブがかった白い髪の女に、ぶつかりそうになった。


「わ、悪い」

「……ボケっと歩くな」

 その女のトレイに乗っているものを見て……俺は目を疑った。

 そこに乗っていたのは、色とりどりのアイスクリーム10種類ほど。シェアして食べるのか?と思ったら、女はひとりぼっちだった。絶対腹壊すぞあいつ……

 と、待たせるのも悪いな。急いで持っていかないと。


「ん~!ロデオ後のアイス、たまんないね~!」

「ちょうど喉が渇いていたので、おいしいですね」

「……」

 三者三様のリアクションを見せる3人。まぁ、満足してるならそれで。

 結局俺もバニラにした。アイスはこれが一番うまいって相場で決まってんだよ(俺調べ)


「その……ごめんね、がり勉君。あたしが変なこと言っちゃったからさ」

「別に構わない。そもそもここ、ほぼ無料で使えてるしな」

「さすが太っ腹だね~!このこの~!」

「バカ、肘ぶつけてくんな!」

 にこにこと笑いながら見つめる緑川。


「2人とも仲いいんですね」

「ん?あぁ、一応幼馴染でな。高校に入って一度別れたんだが」

「転校して再会した……そうだよね?灰島君」

 青柳のその言葉にうなずく。


「え?なんでがり勉君が転校生だって、りんりんが知ってるの?」

「……!?」

 あ。そっか。


 青柳が家に来たこと、緑川と赤城には秘密にしてたんだ。


「灰島先輩って、転校生なんですか!?全然そんな気配しなかったです!」

「そ、それは……その……ええっと……」

 わかりやすく狼狽する青柳。おいおい……


「あぁ、この間他の女の子と親しそうに話してたけど、あれってその話だったのか」

 と、助け船を出すと……


「私……ほとんど女の子と話さないんだけど……」

 全力で沈めるスタイル。青柳、まずお前は空気を読む術を覚えてくれ。


「まぁ、がり勉君が転校してきたって割と有名だしね!早く食べて、もっと遊ぼ!」

 そして聞いておいて自分から話題を変える赤城。……今回はこのコミュ力の高さに助かった!


──────────────────────


「……」

 女は高速でスマートフォンを動かしていく。


 ホワイトナイト @ShiroiKnight 7秒前

 ラウンドテンで、アイスを実食中!

 全種類、どれがおいしいのか、動画化する予定!

 お楽しみに!


──────────────────────


 その後も色んなスポーツをして遊んだ。結果的に、ほぼ赤城無双だったんだが……まぁ、たまには体を動かす。と言うのも悪くはない。

 運動できないだけで、俺は嫌いと言うわけじゃないしな。……そんな中でも……


「ふんぎゃ」「あうっ……」「ふべらっ」


 ……青柳の運動神経のなさには少し舌を巻いてしまうな……




 で、翌日……


「うううううううううう」

「うん。太ももがガクガク揺れて、足が痛い。どう考えても筋肉痛だね……あんまり無理しちゃダメだよお兄ちゃん」

「わ、悪いな……空……湿布をくれ」

 『まったくもう』と言いながら湿布を貼ってくれた空。あんまり調子に乗りすぎるのはよくないな……深く反省しよう。

 とりあえず俺はズボンをはくし、湿布は目立たないな。今日は体育もないし、何とかなるだろう。




「うう……」

 仲間もいるしな!


「お互い筋肉痛かよ……まぁ赤城や緑川がおかしいんだろうけど……」

「……灰島君」

「ん?」

 すると改まった様子でこちらを見た。


「昨日はごめん……灰島君に心配かけてばかりで……」

「そんなもんどうでもいい。お前の悪戦苦闘する姿、結構面白かったしな」

「むっ……」

 コツンとチョップ。


「いでっ!」

「これでも私、真剣。バカにしないで……」

 と言いながら、青柳はずかずかと歩いて……


「痛っ……」

「あんま無理するなよ。ほら、まだ時間あるしゆっくり話しながら行こうぜ」

「う、うん。ありがとう」

 俺は青柳に追いついた後、ゆっくりと2人で歩き出した。




問12.世間に与える影響力が大きい行動を行う人物のことを表す、日本語で『影響者』と言う意味を持つ言葉を答えなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る