第11話 トラッシュトーク

「アミューズメント施設のフリーパス?」

 俺が声を上げると、親父が『そうだ』とうなずいた。


「職場の同僚からもらったんだが、その日別の用事が出来てしまったらしくてな。昼のフリーパスが余ってしまったんだ」

「つっても男1人でアミューズメント施設とか、悲しいぞ結構。昔ホストっぽい芸人がそう言う流れでCMやってたけど」

「あぁ、そう思って……じゃ~ん!」

 それはもう一枚のフリーパスだった。


「なるほど……つまり、なんだ?」

「もう1人!青柳様を誘って行くって言うのはどうだ?」

「断る」

 この間4秒。


「さぁて勉強でも」

「いやいや待て待て!諦めるのが早すぎないか!?」

「それ使えるの明日の開校記念日だけだろうが。その日あいつは図書館で友人と一緒に勉強するんだよ」

 友人=緑川。


「なんだと……!?何たる不備をやらかしたんだオレは!」

「あ~めんどくせぇ」

「そうだ、空……空は!」


「お兄ちゃんが楽しめそうもないし、開校記念日は空は普通に学校だからいけないよ」


 ……終了。


「とにかく俺1人で楽しんでくるから安心しろ」

「あ、あぁ……」


(なんて惜しい事をしたんだオレは……末代までの恥だ!)




 翌日……


「えっと、ここか」

 アミューズメント施設、ラウンドテン。

 スポーツを体感できる施設と、ゲームやカラオケなどが体感できる施設が混在している施設だ。

 俺もこういう施設は初めてだから少し緊張する。

 しかし……せっかくだから使わないと損って意味でここに来たのはいいけど……俺ゲームはともかくスポーツはあんまりだからなぁ。適当にゲームいろいろしてから帰るとするか。


「あれ?がり勉君じゃん」

 聞き覚えのある声で振り向くと、そこには赤城が立っていた。


「赤城?お前なんでこんなところに?」

「なんでって……ここ、たまに来るんだよね。やっぱ休みの日も体動かしたいしさ」

 私服を見てみると、動きやすそうなパーカーにショートパンツ。いかにも体育会系な見た目。

 入る前に軽くストレッチをしている。


「……」

 まぁ、使ったほうが得だよな。と俺は財布からフリーパスを取り出す。


「なぁ、赤城」

「ん?」

「俺の親父が、職場でフリーパス2枚貰ったらしいんだ。もしよかったら……」


・ ・ ・ ・ ・


「そ、それってもしかして、デート!?あのがり勉君が!?」

「あぁそうだよ!悪いか!?」




 そんなひと悶着を終えたところで、施設の中に入る。入口でフリーパスを見せて、エレベーターに乗って5階へ。向かった先は……


「ボウリング~~~!」

「……」

 なんでこんな球ころがしにやる気出せるんだ。と言うのは心の中だけにしまっておく。


「あ、がり勉君が先だよ!」

「あ、俺か……わかったよ」

 まぁ、これも無料で楽しめるんだし。それほどムキになるものでもないだろう。元より運動神経には自信ないしな。

 俺は軽めの球を選び、構えを取る。……これでもボウリングはやったことがある。その時の事を思い出せば……意を決して投げると、まっすぐボールが転がる。


 ……ガーターへ。


「ありゃりゃ、次こそうまく行くから!大丈夫だよがり勉君!」

 励ますな……みじめになるだろ……

 とりあえず、2投目だ。今度は真っすぐ投げるように意識して……


 ……ガーター。


「あードンマイドンマイ。次、あたしね!」

 赤城がボールを持つ。……俺と同じくらいの重さか。

 そのまま構えた後、華麗なフォームで投げ……


 ……ストライク!


「やった~!」

「うまいもんだな。よし、俺も」


 ……ガーター。ガーター。……ストライク!

 ……ガーター。ガーター。……スペア!

 ……ガーター。ガーター。……ストライク!

 ……ガーター。ガーター。……ストライク!

 ……ガーター。ガーター。


「俺のボールだけおかしくねぇか!?」

 結局ムキになる灰島 奏多氏。


「なんか知らんがめっちゃ曲がるし、なんでお前そんなまっすぐ投げられるんだよ!」

「なんでって……まぁ色々意識してやってることがあるから……かなっ!」


 ストライク!


「やっふー!ターキーいただき~!」

「くそ……お前ばっかり楽しんでやがるな……コツってどんなんだよ」

「そうだね……ちょっとこっち来てもらえる?」

 言われるままに赤城の元にボールを持ったまま向かうと、赤城はいきなり……


 むぎゅ


「!?」

 俺に抱きついてきた。


「まず、助走の距離は一定に保って。離すタイミングが狂うだけで大分違うから。次に投げる時はピンじゃなくって、スパットを狙うの。スパットってわかる?あの三角色の床の奴ね」


 ぎゅうううううう


 いや、柔らかい感触が直に伝わってきて何にも集中できんから!


「で、投げる気はちょうど、時計の振り子みたいな感じで腕をまっすぐに投げるの。こうやって伸ばし……どうしたの?がり勉君」

「お、お前……そ、その、む、胸……」

「え?………………!!??」

 ようやく気付いたのか、瞬間湯沸かし器のように体中が熱くなる赤城。


「がり勉君のエッチ!ヘンタ~~~イ!」

「俺むしろ被害者だろうがぁ~~~!?」




 左頬に赤い痕を付けながら、エスカレーターを上がる。


「ご、ごめんね、がり勉君……」

「いいってことよ……」

 とはいえあの後はストライクこそ取れなかったものの、なかなか安定してピンを倒せるようになった。赤城さまさまだな。

 まぁ赤城は250点越えてたんだけど。


「あ、次あっち行きたい!」

 スポーツアクティビティが集まる施設『スポッティア』を指さす赤城。……ついさっきボウリングやったのに!?


「別料金かかるぞ?」

「あ、いいよ。どの道あたしはフリーパス持ってなかったしさ。ここのお金はあたしが払うよ!」

 という事でスポッティアの中に入る。


「へー、色々あるんだな」

 ローラースケートやバスケットボール、サッカーや野球など、様々なものが体感できるようだ。


「そ!ここなら丸1日は遊べるよ!」

「まぁそれと言っても、お前は運動できるからいいだろ。俺は運動が出来ないから」

「てことで早速これやろうよ!」

 キックターゲット。

 サッカーボールを蹴り、9枚の的を射貫く競技だ。


「人の話を聞け!やらんぞ俺は!」

「え~、やろうよがり勉君~」

「もっかいいうぞ!俺はやらん!」

 そもそもただでさえボウリングで足が痛いんだ。今更サッカーなんてできるわけが……


「ふ~ん、そうやって逃げるんだね。がり勉君」

「……は?」

 その挑発の言葉に反射的にリアクション。


「まぁしょうがないよね。さっきのボウリングでもグダグダだったし。やっぱりがり勉君はがり勉君だったんだね」

「……お前」

 そして立ち上がる。


「ちょっとボウリング出来たからって、調子に乗るなよ……」

 我ながら、煽り耐性ないな……


「……ふん!ふん!ふんぬ!」


 結果、1枚も抜けずに終了。


「かっこ悪~い。がり勉君」

「おかしいって!なんであんなボールあっちこちに飛ぶんだよ!」

「それはがり勉君が性格曲がってるからかもね!」

 言うな!自覚あるけど!


「次、あたしね」

 サッカー用の靴に履き替える赤城に……


「ま、スポーツ万能の赤城ならパーフェクト余裕だよな」

「うっ……」

 と、俺からも挑発。 


「お手本のようなシュート、是非見せてほしいなぁ」

「う、うっさいなぁ!今から見せるからちゃんと見ててよね!」


 結果、7枚。


「……言葉にしづらい記録だ……」

「が、がり勉君が試合前に煽るからじゃんか~!あれがなかったらもっと楽に蹴れてたよっ!」

「試合ってお前……まぁ次行くぞ次」


 やってきた場所は、ローラースケート用のトラックだった。


「……」

 足をガクガクさせ、生まれたてのヤギのようにビクビク動く俺。


「おいてっちゃうよがり勉君!」

「お、おい!?ちょっと待……」


 ズルッ


「のわっ!?」

 派手に背中から転ぶ。


「ちょっ、がり勉君!?」

 それに気付いた赤城が、すぐに滑ってくる。


「頭大丈夫!?」

 くそ、今のこいつを考えたら悪口にしか聞こえん!


「わ、悪い……」

「も~、こんな場所でケガしないでね?」

 手すりにつかまり、手を伸ばす赤城。俺はその右手を掴む。


 ――奏多君!


「……!?」

 まただ。また見えた。『あの時』の追憶だ。

 一体どうしてこいつの前だけで見えるんだろうか。

 幼馴染だから?……うん。そうだ。そうに違いない。


「……ごめん」

「え?」

「あたしがやりたいって言うから、こんな恥ずかしい思いまでしちゃって……」

 いや、違う。と首を振るが……


「えっと……次の場所行こっか」

「……あ、あぁ」

 悪い事をしたな……俺は申し訳なさを感じ、ゆっくりと後を……


 ……後を……


「……あ、あの、赤城」

「ん?」


「ぜ、絶対、手を離すなよ……!」

「あ、あはは……」

 こう言うのは普通逆なのに。情けないったらないな……




「さてと、次はどこに行く?」

「どこにって……俺は別にどこでも」

 と、ロデオマシンの前を通りかかった時……


「きゃあああ!」

「!?」

 マシンの上から誰かが振り落とされた。


「うう……思っていたより難しいですね……」

「……私には出来る気がしない」

 聞き覚えのある声だった。


「緑川と青柳?」

「あさちゃんとりんりんじゃん!」

「「え?」」




問11.太もも部分の筋肉、大腿四頭筋を英語で何というか答えなさい。

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