ナイトシフト 4

「お疲れ様で~す」

 店から出た二人は凛子の乗ってきた原付に向かった。

 凛子はメットインを開けてヘルメットを取り出す。それからリアボックスを開けてもう一つのヘルメットを出し、眠そうな真衣に渡した。

「ほら。あとちょっとだから寝ないで」

「…………うん」

 真衣はかろうじて返事をした。

 凛子と真衣は同じ寮に住んでいた。寮と言っても大学側が借り上げたアパートだ。部屋は隣同士なので時間が会えばよく一緒に大学へ行っていた。

 真衣が原付に跨がると、その前に凛子が座った。

「ほら。落ちないように捕まって」

「うん」

 真衣は頷いて凛子の胸に手を回す。

「手に全然収まらない……」

「ナチュラルに胸を揉むな」

「じゃあどこを揉めばいいの?」

「どこも揉まないで! ほら。腰に手を回す。毎回言ってるでしょ」

「まったく。片方で二キロある重り以外に掴むのが最適な場所なんてないのに」

「重り扱いしないでよ。こっちだって毎日肩こって大変なんだから」

「……一度でいいから言ってみたいぜ」

 哀愁漂う真衣を乗せ、凛子は原付を走らせた。

 真夜中の道路は誰もいない。向こうの県道にはトラックが走っているが、コンビニのある町中では皆無だ。

 家の明かりは消され、街灯と月と星だけが輝いてる。夜空には黒というより濃いブルーが広がっていた。

 寮に着いた時には真衣はほとんど寝ていた。

「……あ。牛乳はいらないです……。りんちゃんから出るんで……」

「出るか。変な寝ぼけ方しないで自分で立ってよ」

 凛子は真衣の腕を自分の肩に回し、なんとか立たせる。住んでる部屋がアパートの一階でよかったとつくづく思った。

「ほら、着いたわよ」

 真衣の部屋の前までやって来ると、真衣は急にぐずりだした。

「……やだ。りんちゃんの部屋で寝る」

「なんでよ?」

「だって……あたしの部屋散らかってるからベッドまで辿り着けないし」

「掃除しろ」

「……もし、あたしがベッドに辿り着く前に遭難して死んだら、ダイイングメッセージとして『巨乳で撲殺』って書くから」

「そんな難しい字書く暇があったらベッドまで辿り着くわよ」

 凛子がそう言っても真衣は動く気配がない。

 凛子は仕方なく嘆息し、自分の部屋のドアを開けた。

 すると真衣は急に元気になり、靴を脱ぎ捨てると部屋の奥にあるベッドに走ってダイブした。

「はあ~。生き返る~」

「おい。走れるなら自分の部屋で寝ろ」

「もうここがあたしの部屋みたいなものだよ」

「なら家賃半分払え」

 それを聞いて真衣はむくりと体を持ち上げ、凛子を見上げた。

「じゃあ、家賃払ったら一緒に住んでいいの?」

「そ、それは……」

 凛子の顔が赤くなる。

 真衣は気にせず続ける。

「でもそうなったらお金の節約にもなるからいいよね」

「……まあ、それはそうだけど」

「毎朝りんちゃんが起こしてくれるし」

「それは自分で起きて」

 真衣はベッドの上で正座をした。

 急にかしこまった姿を見せられ、凛子はドキッとする。

「りんちゃん」

「な、なによ……」

「あたし、毎朝りんちゃんの味噌汁が飲みたいな」

「ちょっ! そ、それってあれじゃない! あの時に言う台詞じゃない!」

 凛子は赤くなって挙動不審になる。

 最後の力を使い切ったのか、真衣はゆらゆらと揺れ始めた。

「……それと、焼き魚とだし巻き卵とほうれん草の白和えと筑前煮」

「朝からどんだけ作らせる気よ」

「主食はピザで」

「せっかくの和食が台無し!」

 ゆらゆら揺れていた真衣は遂にこてんと倒れ、そのままスースーと寝息を立てて寝だした。

 凛子は呆れてため息をつき、布団を掛けてやる。

「……まったく、いくつになっても子供みたいなんだから。わたし達、もう大人なんだよ?」

 凛子はしばらく真衣のサラサラした髪をなで続けた。

 それからシャワーを浴び、パジャマに着替えるとそっと真衣の隣で眠った。

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