デイシフト 4

 先程から聖はレジカウンターに突っ伏していた。

 相変わらず客は来ない。

 ゆうなは戻ってきたカチューシャを付け、ぼけっとして前を向いたまま言う。

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃん」

「わたしはお前とは違うんだ。そんな恥ずかしいカチューシャを付けたまま町を歩くくらいなら死んだ方がマシだ」

「……それ、付けてる本人に言う?」

 聖はレジカウンターを叩いて怒った顔を上げた。

「だいたいなんで今日はそんなのなんだ? 普段はもっと普通のだろ?」

「え? だって聖に付けたら可愛いかなって思って」

「思うな!」

 ゆうなはネコ耳カチューシャを取り外し、いつも付けている白い無地のカチューシャを装備する。

「なんで? 思うよ! あたしはいつも聖のこと思ってるよ! コロッケ食べてる時も! 唐揚げ食べてる時も!」

「揚げ物食べてる時ばっかりだな」

 呆れる聖だがゆうなは真剣だ。

「あたしはこんなに聖のことを思ってるのに! 一時も忘れたことないのに! 聖はなんでそんなに――」

「あ。お客さん来た」

「いらっしゃいませ~」

 さっきまでとは打って変わり、ゆうなは接客モードの笑顔を浮かべる。

 やってきた若い女の客が「セブンスター一つ」と言うと言われた通りのタバコを取る。

 会計が終わって客が店から出て行くとゆうなは再び笑顔で「ありがとうございました~。またお越しください」と定型文を言った。

 客が店から去るとゆうなはポカンとして聖に向き直した。

「あれ? なんの話してたっけ?」

「忘れてるじゃん」

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