デイシフト 2

 着替え終わり、タイムカードを切った二人は外の掃除に出かけた。

 箒とちりとりで客が残したゴミを回収する。

「うう……。あたしのうみゃい棒がぁ……」

「まだ言ってるのか。いいから早くしろよ」

 涙目になるゆうなに対し、聖はクールだ。

 感情の起伏が激しいゆうなに付き合っていては聖の身が持たない。

 悲しんでいたゆうなだが、すぐに顔を上げて拳を握る。

「おのれオノセンめ! くだらん話ばかりしよって! 返せ! あたしの時給を返せ!」

 オノセンとは小野先生の愛称だ。二人の担任だった。

「くだらなくはないだろ。中間テストの話なんだから」

「聖は中間テストとうみゃい棒、どっちが大事なの!?」

「普通にテストだろ」

「……まあそれはそうか」

 さすがのゆうなもそれには納得した。

 次にゆうなは聖の袖をちょこんと掴んだ。

「じゃあさじゃあさ」

「まだあるのか?」

 するとゆうなは急にしおらしくなり、小首を傾げた。

「聖はあたしとうみゃい棒、どっちが大事?」

「うみゃい棒」

「捨てたのにっ!?」

 ゆうなは再びショックを受けた。

 またしても涙目になり、その場にへたり込む。

 それを見て聖はやれやれとため息をついた。そして少し照れながら頬を掻く。

「……冗談だよ。本当はどっちも好きだ」

 ゆうなは顔を赤らめる聖を見上げ、そして嬉しそうに抱きついた。

「聖ぃ! 大好き!」

「は・な・れ・ろ」

 キスしようとするゆうなの顔を聖はなんとかキャッチした。柔らかいほっぺがむにっとなる。

「もう。照れちゃってぇ~」

「照れるとかじゃないから。さっきからオーナーが見てるんだよ」

 聖が指差した先に若い女が立っていた。おっとりしていて胸が大きく、長い髪にはふんわりとしたパーマが当てられている。割烹着につっかけ姿だ。

 ここのコンビニのオーナーだった。

「あらあら。いいのよ。続けても」

 オーナーは嬉しそうにスマホのカメラを起動して二人に向けていた。

「ほら、ああ言ってるし」

「いや、お前らおかしいだろ」

 そのあとなんとか聖がゆうなを制し、掃除を終わらせた。

 なぜか一番オーナーが残念そうにしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る