05.
いつも、彼はお昼ごはんを食べていなかったので。ちょっと気になって、食べるかと訊いてみた。
その日から、彼は、わたしとごはんを食べるようになった。
次の日。彼も自分でお弁当を作って持ってきてくれた。わたしに渡して、お礼だと言ってほほえんだ。
そのお弁当を食べて、わたしは、敗北を悟った。料理は、彼のほうが、うまい。
ふたりで屋上でごはんを食べるようになって。いつしか、わたしは、お昼ごはんを持ってこなくてもよくなった。彼が、ふたり分、作ってきてくれる。そして、とってもおいしい。
「おいしい」
卵焼きと、おにぎりが好き。
「よかった。お茶もあるよ」
「いただきます。誕生日プレゼント。楽しみにしててね」
もうすぐ、彼の誕生日。
「ありがとう」
唐揚げと、お茶も好き。ぜんぶ好き。
お茶を差し出す、彼の腕。
傷。
思い出される。差し出された腕からも、少しだけ、見える。
訊けない。
この関係が。いまのふたりが。こわれてしまう気がして。
「あ、傷のことか」
「う」
彼は。洞察力がある。
「夜の仕事をしてるんだ」
「夜の、仕事」
「守秘義務があるからあんまり詳しくは言えないけど。そうだな。あんまりこの言い方は好きじゃないんだけど、正義の味方をしてる」
「正義の、味方」
「わるいやつらと戦わないといけなくてさ。傷が絶えないんだ」
「もうひとつ。もうひとつだけ、訊いてもいいですか?」
どうしても。知りたい。興味が勝ってしまった。
「敬語でなければ。どうぞ」
「あの」
言葉を紡ごうとして、いったん、お茶を飲む。おいしい。
「いつも屋上にいて。なぜ外を。校庭のほうを、眺めているの?」
「屋上にいる理由か。そうだな」
彼。やさしくわらって、考えるしぐさ。
「しにたいから、かな。屋上から飛び降りて」
その瞬間に、わたしのなかで。彼への誕生日プレゼントが、決まった。
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