04.

 少しだけ縮まった距離。


 それからも、屋上で、ふたりで会った。


 彼の傷のことは、きけなかったけど。それ以外のことは、少しずつ、ぽつぽつと、おはなしができるようになった。


 彼は、三年生。単位は足りていないけど、教室にいるのが退屈で、ここにいるらしい。


 勉強をする気は、ないと言っていた。誕生日が、もうすぐ来るとも。


「きみは?」


「わたし」


 わたしのことも、少しだけ、喋った。飛び級システムがあるから、この高校に来たこと。テストを受けまくって、すべての単位を取得してしまったこと。これからの3年間を過ごすために、校内を探索していてここに来たこと。


 彼は、わたしの鞄の中身を知りたがった。この前のアイロンに、興味をもったらしい。


 通販で買ったものを、いくつか見せてあげた。


「すごいな。通販なんて、金を巻き上げるための手段ぐらいにしか思ってなかった」


 彼。通販で買った音楽プレイヤーを手にとって、眺めている。


「そんなことはないです」


「敬語」


「あ」


 彼は、わたしが敬語を使うのが微妙らしい。


「そんなことはないよ。正しく見極めて買えば、通販はとっても便利」


「そうか。俺も買ってみようかな」


「見極めるには経験が必要ですよ?」


 ぎりぎり、敬語ではない会話表現。


「そっか」


「聴いてみます?」


 イヤホンの片方を、彼に渡した。


 彼と。


 同じ音楽を聴いて。


 同じ方向を向いている。


 屋上。


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