04.
少しだけ縮まった距離。
それからも、屋上で、ふたりで会った。
彼の傷のことは、きけなかったけど。それ以外のことは、少しずつ、ぽつぽつと、おはなしができるようになった。
彼は、三年生。単位は足りていないけど、教室にいるのが退屈で、ここにいるらしい。
勉強をする気は、ないと言っていた。誕生日が、もうすぐ来るとも。
「きみは?」
「わたし」
わたしのことも、少しだけ、喋った。飛び級システムがあるから、この高校に来たこと。テストを受けまくって、すべての単位を取得してしまったこと。これからの3年間を過ごすために、校内を探索していてここに来たこと。
彼は、わたしの鞄の中身を知りたがった。この前のアイロンに、興味をもったらしい。
通販で買ったものを、いくつか見せてあげた。
「すごいな。通販なんて、金を巻き上げるための手段ぐらいにしか思ってなかった」
彼。通販で買った音楽プレイヤーを手にとって、眺めている。
「そんなことはないです」
「敬語」
「あ」
彼は、わたしが敬語を使うのが微妙らしい。
「そんなことはないよ。正しく見極めて買えば、通販はとっても便利」
「そうか。俺も買ってみようかな」
「見極めるには経験が必要ですよ?」
ぎりぎり、敬語ではない会話表現。
「そっか」
「聴いてみます?」
イヤホンの片方を、彼に渡した。
彼と。
同じ音楽を聴いて。
同じ方向を向いている。
屋上。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます