03.

 予鈴が鳴ったのでお互い出席確認のために屋上を出て、そしてまた、屋上に戻ってきた。彼。入り口のところで、立ち往生している。


 肩に軽く触れる。


「あ」


 彼が振り返って。


「いや、また濡れていたら、叱られると思って」


「傘はひとつだけ、あります。屋上に、行きますか?」


「いや、今日は入り口にしとくよ」


 彼の制服。まだ、濡れている。


「脱いでください」


 自分の服が濡れたときのために、小型のアイロンを持ってきていた。通販で買った、遠赤外なんちゃらのやつ。


 彼が、制服を脱ぐ。


 白いシャツ。鍛えられた、身体。


 渡された詰袖の学生服を、アイロンで暖める。


「はい。どうぞ」


 彼が、制服を着る。そのとき。白いシャツの間から。少しだけ、腕が。見えた。


 傷。


「ありがとう。あったかいな」


「あの。よければ、下も。わたし、後ろを向いているので」


 傷が。気になってしまった。


 彼が、制服の下を脱ぐ。ほんの一瞬。一瞬だけ後ろを向くのを遅らせて。彼の脚を。


 やっぱり。


 傷。


 それも、ひとつやふたつじゃない。無数の、傷。筋肉のついた脚に。


「はずかしいな」


「あ、ごめんなさい」


 制服の下が、入り口から階段のところの手すりに掛けられる。それを、アイロンで暖めた。


 振り返らないで、渡す。


「ありがとう。あったかいな」


 振り返った。


 彼。うれしそうに、ほほえんでいた。

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