第24話 ローズの乙女心
「ちょっとそこに座りなさい」
ローズの部屋にはクリームがいた。いつものジャージ姿で壁際に腰を下ろしている。ローズはショートパンツに肩の部分が露出した可愛らしい服だった。
用意された座布団の上にロックは正座で座る。ここであぐらを組む行為は火に油を注ぐだけだ。
「お手柔らかにお願いします」
「それはあんたしだいよ」
キッという目つきから、これから溜まっていた文句を吐き出すのだろうと予想できる。胃が痛くなってきた。
「それで、えっと。話というのは?」
「あんた。広報部が来るってなんで黙ってたわけ?」
「いや、突然受付の人から知らされて」
もちろんそんな話はない。嘘だ。
「だとしても、まずはリーダーに報告するのが筋でしょう? 違う?」
「ごもっともです。はい」
「まったく。あんた勝手すぎるわ。隣でバタバタバタバタうるさいし」
「まったくもってそのとおりです。気をつけます」
「それもなに? なんでクリーム一人なわけ?」
「え?」
…ん? どういうこと?
「そりゃクリームのほうが可愛いでしょうけどね」
「そ、そんなことはないよ。ローズちゃんのほうが可愛いって」
「じゃあなんで私が呼ばれないのよ!?」
「い、いや、それは…」
怒ってるの、そっち!?
乙女心ってやつか。むむむ…。これは困ったぞ。
「べ、別にそのことを怒ってるわけじゃないからね! 今回の件はあくまで、あんたがリーダーに報告しなかったこととか隣でうるさくしてることを怒ってるんだからね! わかってるの?」
「あ、はい」
いや、お前、絶対違うだろ。明らかに、「なんで私が呼ばれないのよ!?」って言ったときの力の入れ具合、声の大きさが半端じゃなかっただろ。
しかし、正直じゃないのも人ってやつか。そんなお前を好いてくれるやつがいるというのに…。ここは、あいつを利用するしかないか。
「えっと…ローズさん」
「なに!?」
狂犬のように、彼女は怒っていた。
年下だけど、ちゃんづけなんてとてもできない雰囲気だ。
「キールからなにか話は聞いてる?」
「なんでここでキールが出てくるのよ!?」
「あいつ、ローズさんに告白するみたいだよ」
「え!?」
「あ、それ。ロックさん。言っちゃダメなやつ…」
ロックはクリームに目で訴える。
使える切り札があるなら、ここで使うしかないだろ。
「ワンダーポリスに休日行く予定だよね? そこで告白するらしい。それって、つまりローズさんに魅力があるってことだよ」
「そ、そうかな?」
ローズは熱くなってきたのか、真っ赤な顔を手で扇ぎだした。それは怒っているというよりも恥ずかしがっているからだった。
「そうだよ。ローズちゃんは可愛いから」
「私、可愛いかな? 魅力ある?」
「うんっ。当たり前じゃない」
クリームは全力フォローである。
ああ…。クリームさんの気遣いの苦労さが伝わってくるなあ。女性同士は大変だあ。僕なら無理。めんどくせって思っちゃう。
「そ、そう。ま、告白の件はわかったわ。今度の休日ね?」
よかったな。キール。たぶん、脈アリだ。そして、キール。お前この先、結構苦労しそうだぞ。覚悟しておけ。
「じゃあ、僕はこれで」
この流れに乗じて、ロックは立ち上がる。そして、ドアノブに手をかけた。
「ちょっと待ちなさい」
「う…」
「今後は気をつけなさいよね?」
「わかりました。じゃ、じゃあこれで」
ホッと息をはき、どうにかそこから脱出に成功できた。
やれやれ。すまん、キール。変な展開になったが、まあ、成功すれば問題ないだろ。
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