第22話 正しい拷問の方法

「あれ? あいつ、まだ戻ってないのか?」


 昼食の時間。ダイニングルームに入ってきたキールは開口一番、言った。ロックがいないことに気づいたからだ。五人がそろい、いただきますをしてから食べ始める。


「突然お腹が痛いとか言い出して、怪しかったよな」

「絶対あれ、嘘よ。こそこそ一人でなにしてるのかしら?」

「…」


 クリームにも、ロックがなにをしているのか、知らされていなかった。

 いったいロックさんはなにをしているの? 私にも事情を話さずに…。


「シンさん。なにか聞いてます?」

「いや、なにも…」

「まったく、あいつ…。勝手なやつよね」

「今は食べることに集中だ」

「は〜い」


 オルトの注意に静かになった。少ししてからロックが顔を見せる。


「やあ。みなさん」


「お、お前。戻ってたのかよ」


 涼しい顔のロックの登場に、一同注目。彼は空いているクリーム真横の席に座り、用意されたパスタを食べ始めた。


「うん。おいしい。このトマトソース最高だ」

「あんた、お腹痛いんじゃなかったの?」

「出すもの出したら治った」

「汚いこと言わないでよ。たくっ」

「ロック。体調管理も仕事のうちだ。今度から気をつけるんだぞ?」

「は〜いっ」


 もはや慣れてきたのか、ローズ、キールも苦笑いで済ませることになった。そして、昼休憩の時間になり、クリームに声をかけた。


「ちょっといいかな?」

「なに?」

「僕の部屋に来てくれない?」

「…わかった」


 さっきまでなにをしていたのか、そのことを話してくれるのだろうか?

 そんな期待と不安を心のうちに秘めてから、彼の部屋を訪れた。そこで待っていたのは見知らぬ女の子だった。


 誰? この子?


 ***


 数時間前。


 仕事の開始時間が近づいてきていた。ロックはひとまず寮へ戻り、みんなの前で腹痛だと言ってからトイレへ駆け込んだ。メンバー全員が魔物エリアに仕事に取り掛かったあと、宝珠の設定をいじってから、ロープを手に持って再度元の場所へ。


 そこには眠らせている女子がいたので丁寧に手足を縛った。そこだけ切り取ると女子を縛っていかがわしいことをしようとしている変態に思えるが、いかがわしいことをしていたのはこいつだ。


 黒髪ショートカットの女子は、華奢な体格をしていた。彼女の手首につけたワンダーリングを外し、持っていた煙幕弾も回収する。

 魔法使い、か。はめている宝珠は白なので補助系。見た目だけではわからないので気になるところだ。こいつが何者で、なにをしようとしていたのか、今から吐かせる必要がある。


「ん…んん」

「目覚めたようだね」

「お、お前っ」


 縛られていることに気づき、彼女の表情が怒りに満ちたものへと変わる。


「さて。まずは名前から教えてもらおうかな?」

「…」


 彼女は視線を下げ、黙っていた。それは言うことを拒否している子供のようだった。

 まあ、実際子供だ。いっても十代後半といったところか。


「僕の部屋の上でなにをしていた?」

「…」

「誰に頼まれた?」

「…」


 捕まったときの教育までされているのだろう、言うつもりはなさそうだ。


「う〜ん。しょうがないなあ。君、じゃあ、これから僕の実験体になってもらおうか」


「な、なにをするつもり?」


 実験体。その言葉が耳に入ったので恐怖を感じたようだ。少女は顔を上げ、口を開いた。先程とは違い、明らかに動揺が見て取れる。


「ん? 僕は宝珠の改造を趣味にしててね。さてと」


 ロックは立ち上がり、一歩下がったところで手のひらを彼女に向けた。


「…私がそんな脅しに屈するとでも?」

「それを試す実験でもあるから」

「私は組織を売るつもりは毛頭ない」


 縛られて絶体絶命なのに、彼女はクールだった。


「わかった。じゃあ、こっちとしてもギブアップするまでやっていいってことだね」

「ギブアップなどしない。あきらめろ」


 ここに来る前、ロックはダテレポの改造も行っていた。まずは通常のダテレポを使う。

 彼女の体はふわりと浮き上がり、次の瞬間、急上昇。


「ひっ!」


 彼女から悲鳴が上がる。十メートルほど上がったところで停止。ホッとしたのもつかの間、元の位置へ急降下し、着地した。ちょっとしたアトラクションを体験してもらう。


「ふー。ふー…」


 恐怖の顔を引きつらせた彼女が目の前に戻ってきた。ロックは笑顔で問いかける。


「ギブアップする?」

「だ、誰が。この程度のこと…」


「しょうがないな。じゃあ次はもっと高く上がってもらおうか」


「え?」


 お次は十五メートルの急上昇、急降下を味わってもらった。ここからは改造コードのダテレポだ。「ひいぃっ!」という叫び声が彼女から聞けた。下りてきた若干涙目の彼女に再び問いかける。


「ギブアップ?」

「…」


 次は二十メートルを体験してもらった。「うぎゃああああっ!」という少女の断末魔のような叫びが耳に届く。それでも彼女は口を割らなかった。


「ふー。ふー。ふー」


 目から涙、鼻から鼻水を垂らした彼女が目の前にいた。

 なんか可哀想になってきたな。でも、この子から喋ってくれないと進展しないし、もうちょっと続けるか。


「君。Mコード知ってる?」

「ふー。ふー…」

「知ってるって顔だね。じゃあループって知ってるかな? 繰り返し処理の」

「ふー…」


「今の、五回ループいってみようか」


「!」


 彼女の表情が恐怖へと変わる。その目は頼むからやめてくれと言っているように見えた。しかし、一度発動してしまった魔法は止められない。そこから二十メートルの急上昇、急降下をワンセット。それが五セット休みなしの連続で繰り返された。



「うぎゃああああああああああああっ!」

「みぎゃああああああああああああっ!」

「いやああああああああああああああっ!」



 誰もいない林の中、繰り返される断末魔に似た叫び声が響いた。五セット後、彼女はやつれたような顔をしていた。髪はくしゃくしゃ、目から光が消え、絶望しているような、そんな表情だ。


 あとひと押しだな。


「じゃあ、次は十ループだ」

「うぅ!」


 少女は泣きながら、ブルブルブルと顔を横に振った。喋る気力もないようだ。


「ん? なに?」

「や、やめて…」


「なんだって? 聞こえないなあ」


「やめて…ください。お、お願い…します…」

「じゃあ、知ってること全部、聞かせてもらおうか」


 こうして、軽い恐怖体験(拷問)をしてもらったあと、彼女から話を聞くことに成功したのだった。

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