安全な檻 1205字/30分
君が帰ってくるのを待っている間に、僕はおかしくなってしまった。
僕がどれほど君のことを大切に思っているか君は知っていて、なのに心配させるようなことばかりする。いくら言葉を尽くしても生活態度を改めず、怪我をして帰ってくることもある。
だから君を閉じ込めることにした。別に永遠に閉じ込めるつもりはない。家の安全さを思い知り、今後生活態度を少し改めてくれればいいのだ。
魔法で眠らせた君を特別にこしらえた部屋へ運び、閉じ込める。しばらくしてから目覚めた君は口汚く僕を罵るかと思ったが、そんなことはなく、妙に落ち着いた様子で僕の話を聞いていた。
本当に、本当に君が心配でたまらないこと。ここにいれば安全だということ。ずっと閉じ込めるつもりはなく、今後気を付けてくれるなら何日か後には外に出してあげるということ。
一生懸命説明する僕の言葉に耳を傾けて、君は納得したようだった。
君の好きなシチューと、焼き立てのパン。君は毎日おいしいといって食べてくれるからついつられて僕も食べすぎてしまうのか、体重が増えた。二人分の食事はいつもきれいにさらわれて、毎日君と食べるメニューを考えるのがとても楽しい。
でも最近生ごみの量がなんだか多い気がする。君は毎回残さず全部食べてくれている筈なのに。調理過程で出るごみが増えているのだろうか、気をつけないと。
外に出ないといっても身形は整えないといけない。
閉じ込められてから君は少し甘えん坊になったみたいで、一人でお風呂には入らなくなった。いつも僕と一緒に入り、僕に背中を流させ、髪を洗わせる。
君の艶やかな金髪に指を差し込んで洗うのは僕にとっても幸せな時間で、異論は無い。が、最近少し抜け毛が多い気がする、外に出ないからストレスが溜まっているのだろうか。
君がいつも使っている剣をそのへんに放っておいても、君はそれを使って僕を脅そうとはしない。ただ静かに微笑んで、僕のわがままを受け入れてくれる。
そう、これがわがままだってことは僕が一番よくわかっているのだ、君が外へ出るのは魔物を退治して僕たちの生活の糧を得るためなのだから。でも僕は、それでも君が傷つくことに耐えられなかった。
君の背に、腕に、傷跡が増えていくたびに僕は泣いた。君は困ったように僕の頭を撫でた。それでも僕は我慢出来なくて、君を閉じ込めた。君は黙って笑っている。
……家から出さないようにしてから少しの時間が過ぎ、そろそろ鍵を開けてもいいかもしれないと思い始めた。強いなくても、君は話せばわかってくれるのだ、僕が大好きな君なのだから。
眠っている君の頭をそっと撫でる。君はぐっすり眠っていて目覚める様子は無い。
君の口からぞろりとシデムシが顔を出した。そろそろお風呂に入れてあげないと。ここのところ君にまとわりつく虫が増えてきた、温かくなってきたからだろうか。
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