鬱ゲー転生。 知り尽くしたギャルゲに転生したので、鬱フラグ破壊して自由に生きます【旧題】泣きゲーの世界に転生した俺は、ヒロインを攻略したくないのにモテまくるから困る――鬱展開を金と権力でねじ伏せろ――
第196話 隠した爪は隠したまま終わることの方が多い
第196話 隠した爪は隠したまま終わることの方が多い
ミケくんと俺との勝負は、壮絶な接待合戦となった。
主人公における接待とは、ヒロインたちに気持ちよくなって頂くことである。
別名好感度稼ぎともいう。
まあ、平娘ちゃんとタブラちゃんは攻略対象ではないのだが、基本的には接した全ての女性に対して、親切にするのが主人公である。
ズバン!
「……」
赤い靴を模したゴールに円盤を蹴り入れたタブラちゃんが、ふんすふんすと鼻息を鳴らし、ドヤ顔で俺を見上げてくる。
「やるね。また見事な一撃だったよ」
俺はそう言って、タブラちゃんの頭を撫でた。
平娘ちゃんがニコニコしながら拍手を送る。
タブラちゃんは嬉しそうに眼を細めた。
全く見事なゴールである。
ただし、それがオウンゴールであることを除けば。
タブラちゃんは一応、ルールは理解しており、最初はギリギリ勝負の体を成していたが、それもすぐに終わった。
きっかけは、平娘ちゃんが一度、守り損ねて円盤を誤った方向にはじき、自殺点を入れてしまったことだった。
その程度は、この手のゲームをやっていればよくあることだ。
しかし、それをきっかけにタブラちゃんは、このゲームはフリーに円盤をゴールに入れれば良いルールだと勘違いしたらしい。
やがて彼女は敵味方の区別なく、ボールを奪取してひたすらゴールに蹴り込む動作を繰り返すようになり、試合はうやむやになった。
今は三人で協力してタブラちゃんの攻撃を防ぐという、よくわからないゲームと化している。
「実際、彼女はすごいね。完璧なフェイントだった。動物的勘と経験に裏打ちされた戦術が見事に調和しているよ」
ミケくんが率直に賞賛を口にする。
俺にはタブラちゃんの動きは速すぎてよく見えないのだが、ミケくんが言うのならきっとそうなのだろう。
実際、この場でタブラちゃんの本気の動きにまともについていけるのはミケくんだけだ。
俺と平娘ちゃんは、ミケくんの指示で動くロボットのようになっている。
「はは、そう言って頂けるとタブラも喜びます。――あと、なんかグダグダですみません」
俺は申し訳なさげに頭を下げて言う。
「いや、戦場では誰が敵か味方か分からなくなることなんてよくあるし、ある意味リアルでおもしろいもしれないね」
ミケくんが爽やかに、でもそこはかとなく血生臭いフォローをする。
これではもはや、どちらが接待をしているのかわからない。
(最初はもうちょっと、まともな異能バトルぽかったんだけどな)
ミケくんも試合開始直後はイナズマイレブ〇やキャプテ〇翼もかくやといったような、エフェクトつきの必殺技を繰り出して、大活躍していたのだ。
それはまさにチート主人公らしい動きで、それに触発されるようにタブラちゃんもガチモードになり、中々白熱した試合になっていた。
無論、ミケくんはチート自慢をしたかったのではなく、力の片鱗をこちらにぶつけることで、俺が何か特殊能力を隠してないか、探りたかったのだろう。
だが、もちろん今の俺氏は覚醒もしてないただのクソガキであるので、ミケくんのスーパープレーについていけるはずもない。
結果、ただの棒立ち地蔵と化した俺に、ミケくんはなんだか申し訳なさそうな表情と共に視線を伏せて、徐々に控えめなプレーに戻っていった。
そんな過程もあり、今ではすっかりただの優しいお兄さんと化したミケくん。
俺と平娘ちゃんが退屈しないように、適度に円盤を回して気を遣ってくれている。
(やっぱり、近くに主人公がもう一人いると楽ができていいなあ)
そんな呑気なことを考えながら、和気あいあいと円盤を蹴り続ける。
やがて、『ププププッププー』とラッパを吹いたような間抜けな音がして、試合の終了を告げる。
剣の形をしたシャッターが、ゴールを閉ざした。
元ネタの、『主人公の娘の赤い靴が脱げなくて、役人に足首を斬り落としてもらうという』というシーンを再現しているという訳だ。
俺たちはコートの外に出て、専用の靴を脱いだ。
「おめでとうございます。ミケさんチームの勝ちです」
俺は額の汗を手の甲で拭い、勝者を称える。
タブラちゃんのノリ次第でどうにでもなる結果はあったが、負けは負けだ。
「ありがとう。というか、これは勝ちと言っていいのかな」
ミケくんが複雑な表情で呟く。
「もちろん、それがルールですから。とりあえず、賞品代わりに飲み物でも買ってきますね。何がいいですか」
「お茶か水か、甘すぎないものならばなんでも――というか、ボクが行ってもいいかな」
ミケくんは途中まで言いかけてから、そう申し出てきた。
「そちらのチームが勝ったんですから、ゆっくりしていてくださいよ」
「ああ。でも、年下を使い走りのようにするのは、何となく気が咎めるんだ」
ミケくんはそう言い張る。
(ミケくんは紳士ですなあ)
もちろん、先ほどの発言は彼自身の優しさの発露でもあることは確かだ。でも同時に、飲み物に何か混入されるのを防ぐためのエージェントとしての予防措置でもあるのだろう。だとすれば、無理に俺が買い行くのも余計な不信感を与えるかもしれない。
「――えっと、では、お言葉に甘えてコ〇ラで。タブラにも同じものをお願いできますか」
俺はあっさりと引き下がり、遠慮がちに呟いた。
「わかった。コー〇二つだね。君はどうする――えっ? ついてきてくれるの? 悪いね」
ミケくんが平娘ちゃんと連れ立って、自販機に向かっていく。
平娘ちゃんは俺が目配せするまでもなく、監視役を買って出てくれたらしい。
ミケくんを信用してない訳ではないが、何も警戒してないというのも無防備すぎて不自然だからね。
まあ、ミケくんが本気で何か仕込もうと思ったら、平娘ちゃんの目を盗むくらいは余裕ではあろうが。
「ということで、コーラにしたけど、問題なかった?」
まだまだタブラちゃんの嗜好は謎だが、それでも接する機会が増えれば分かってくることもある。
タブラちゃんはコー〇が好きだ。
というか、コー〇に限らず、炭酸飲料全般が好きである。
味というよりは、シュワシュワ感を欲していると思われる。
ジェットバスとかにも放っておくとずっと浸かっているしね。
「……」
タブラちゃんは俺の問いには答えずに、隣のコートにじっと視線を注いでいた。
「ああ、そろそろアイたちの方もクライマックスみたいだね」
俺もタブラちゃんに合わせてそちらを見た。
(12対11か……)
アイちゃんとヘルメスちゃんの試合はまさに白熱中。
大差はつかず、1点を争う接戦となっていた。
(思ったよりもアイちゃん優位でもないな。15点先取で勝利だけど、さてどうなるかな)
俺は興味深い気持ちで、試合を行く末を見守り始めた。
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