第155話 一鬼夜行(1)
人々が寝静まった夜更けに、俺たちは空き地に集合した。
「ぬばたまの姫神様に敬意を表するため、あらゆる明かりの類は消してください。よろしいですね」
巫女服姿のたまちゃんが厳かに呟く。
すでに道伝いにしめ縄が張られ、ぷひ子を家からこの空地へと誘導する手筈は整っている。
「余裕っすね。小生たち、夜戦は得意っすから」
「……問題ない」
「オリジナルの力、楽しませてもらおうかしらぁ」
ヒドラちゃんたちが臨戦態勢に入った。
もちろん、兵士娘ちゃんたちもフル装備で参戦。なぜか、タブラちゃんまでいる。
アイちゃん曰く、作戦に必要らしい。
彼女たちは全員、スーパーウーマンたちなので、夜目が効く。
俺はそのままだと何も見えないが、今はお兄様産の呪術的コーティングを施した暗視ゴーグルをつけているので視界を確保している。
なお、普通のゴーグルだと、ポルターガイスト的なアレで電子機器はぶっ壊れるので使い物にならない。
「みんな。よろしく。太陽が昇るまで耐えきれば、俺たちの勝ちだ。――誰も殺さないでくれ。そして、みんな死なないでくれ」
俺は改めて作戦目標を告げる。
「そんなこと言ってぇ。一番死にそうなのはマスターでしょぉ?」
アイちゃんがおかしそうにクスクス笑う。
「祐樹様、ご無理ならさらずに、本殿の結界の中にいらした方がよろしいかと思いますがー」
たまちゃんが不安げに言った。
「心配してくれてありがとう。でも、もしかしたら、俺の言葉が美汐に届くかもしれないから、このままいさせて欲しい」
俺は神妙に呟く。
俺氏も無駄に前線へ出ている訳ではなく、ぷひ子本体の心に語りかけるという役割がある。
本編では、主人公の呼びかけはぷひ子の魂を刺激して、こちら側に引き戻す効果があった。
ただし、それは青年期に入り、ぷひ子と主人公が恋仲になった後のことであって、今の俺の言葉がどこまでぷひ子に届くかは怪しい所だ。
まあ、でも、主人公なのにメインヒロインのピンチに何もしないのもかっこ悪いしね。
「祐樹様がそのように決意なさっているのであればー、私はこれ以上何も申し上げることはありませんー。――時を待ちましょうー」
たまちゃんが緊張気味に答える。
静寂が辺りを支配している。
田舎は本来、虫や動物の鳴き声で意外とうるさかったりするのだが、今は全ての生き物が、何かを察したように沈黙していた。
「いらっしゃいましたー」
前触れもなく、たまちゃんが呟く。
半月は雲に隠れ、星々の輝きは原初の存在に恐れおののいたようにくすむ。
真の闇が帳を降ろした。
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