第154話 料理は後片付けがめんどくさい

「――そういう訳で、ぷひ子対策会議を開きます」




 ぷひ子家を出て、シエルちゃんとソフィアちゃんを帰した後。




 俺は自分の家のリビングで、兵士娘ちゃんたちを集めてそう宣言する。




「対策って何するんっすか?」




「……報酬として、成瀬祐樹の貞操を要求する」




 なんか兵士娘ちゃんたちの他にも、虎鉄ちゃんは当然のようにそこにいるし、ダイヤちゃんは帰れって言っても全然帰らないし、ママンも電話を明らかに意図的にシカトしてきてるし、もうスルーするしかない。これ以上、揉め事を起こしてもらったら困る。




「――今晩、おそらく、ぷひ子には夢遊病の症状が出る。みんなも研究所で経験があると思うけど、強力なぬばたまの姫の呪力に晒されると、そういうことがあるんだ」




 俺はダイヤちゃんを無視して、話を先に進めた。




 現状、ぷひ子の呪いはひ〇らしでいうと、L2+くらいの進行度なので、余裕があるといえばある。でも、放っておく訳にはいかないのもまた事実だ。




「知ってるわぁー。ふらふらしているから、いい餌になるかと思ったら、大体、こういう感じになってる娘は強いのよねえ。アタシも何回か殺されかけたことがあるわぁ」




 アイちゃんが懐かしそうに言った。




「ああ、そういえば、ヒドラに上がったばかりの小生にもそういうことがあったらしいっすね。自分では覚えてないんっすけど、食糧庫に忍び込んで生肉を爆食いしてたみたいっす」




 虎鉄ちゃんが頷く。




「……能力付与の副作用としてそのような症状が出る個体がいることは把握している。……私自身に経験はないけど」




「なにそれ自慢―? むかつくぅー」




「……事実を述べただけ」




 アイちゃんとダイヤちゃんがバチバチにガンをつけ合いながら応酬する。




「とにかく、そのまま放っておくと、ぷひ子が怪我をしたり、最悪川に落ちたりして危ないので、食い止めなければいけないよね」




 と言ってみるが、俺はぷひ子の行先を知っている。




 多分、原作通りなら、ぷひ子はぬばたまの姫に呼ばれるがまま、うらぶれた拝殿に向かう。




 もちろん例の拝殿は、今は俺がコンクリ詰めにしてしまったので、基本的には中には入れないはず。だが――ぷひ子の覚醒度によっては、コンクリくらい余裕でぶっ壊すしなあ。仮にぷひ子の憑依度が大したことなくても、爪が剥がれるまでコンクリを引っかいたり、頭をガンガンぶつけまくってこれ以上アホになったらかわいそうなので、助けてやらなければならない。




「……任務は目標ターゲットの無力化? ……なら、今の内に、目標の家に潜入し、脚と腕を使えない様にすればいい」




 ダイヤちゃんが呟く。




「あー、ダイヤ、外に傷痕を残さずに、内臓だけグチャグチャにするの得意っすもんね。あの暗殺術は小生には真似できないっすよ!」




 虎鉄ちゃんが称えるように言った。




「あくまで無傷で、だよ。美汐を傷つけたら、いくら母さんの秘蔵っ子でも許さない」




 俺は厳しめに告げる。




 かわいい見た目に忘れがちだが、ヒドラはママンのマッドを煮詰めて作ったヤベー奴らなので、倫理観に期待してはいけない。




「はぁー。面倒ねえ」




 アイちゃんが肩をすくめた。




 俺の言葉はダイヤちゃんに向けたものだが、アイちゃんへの牽制でもある。




 アイちゃんが本気を出せば、今のぷひ子レベルの呪いなら対抗できるだろうが、それをやってしまうと、ぷひ子は魂ごと焼かれて廃人になる。




「ああ。面倒だが、頼む、具体的な作戦の立案はアイたちに任せる。俺はいまから、環さんに協力を要請してくるから、その間に考えておいてくれ」




 有無を言わせない口調で厳命して、俺は席を立つ。




「小生は? 何をすればいいっすか?」




「既成事実……。任務……」




「虎鉄さんとダイヤさんは、二人とも身から出た錆だから、報酬はあげられないけど、それでもよければ協力して。嫌なら、何もしなくていい」




 俺はそう釘を刺す。そして、怒りを表現するため、二人に背中を向けたまま、玄関へと向かった。

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