第124話 脳筋キャラは大体チョロい(2)

(まあ、どんなに頑張っても、続編の虎鉄ちゃんルートだと、グッドエンドだろうと虎血組は滅びちゃうんですけどね)




 虎鉄ちゃんルートの虎血組は、ミケくんの協力もあり、みんなで頑張って竜蛾組を壊滅させる。でも、結局弱ったところを他の組に襲われてお陀仏しちゃうんだ。




 基本的にくもソラ世界観はシビアなので、『カタギに迷惑をかけない良いヤクザ』が繁栄するというファンタジーを許さない。




 虎血組は、構成員の全てが一騎当千の質が高い昔堅気の武闘派ヤクザだが、数が少なく資金力も貧弱。一方、竜蛾組や他のヤクザは、組織力と資金力に優れ、インテリヤクザを使って合法ビジネスも展開するし、半グレとか海外マフィアと実は裏で繋がってるし、やりたい放題。まあ、つまるところ、時代の流れに取り残された虎血組は、ヤクザの理想と一緒に桜吹雪のように美しく散るのが運命さだめというのが、ライターさんの公式見解だ。




 でも、虎鉄ちゃん、よかったな。この世界線では俺氏が竜蛾組をボコしたおかげで、虎血組の寿命が、しばらくは延命されたぞ。どのみち世間的にはこれからどんどんヤクザへの風当たりは強くなるから、合法ビジネス重視に転換しないと未来は暗いと思うけどね。




「……俺も、出来る範囲で協力してもいいよ」




「ほ、本当っすか!」




 虎鉄ちゃんがガバっと顔を上げる。その表情には分かりやすい期待の色が宿っていた。




「うん。でも、それより前に、まず、俺の母さんや虎鉄さんのお父さんに話を通すのが筋じゃないかな。母さんの方には口添えくらいはできるけど、やっぱり、まずは君の方から話を持っていくべきだと思う」




 俺は無難な返答をする。




 俺の続編ヒロインとの関わり方の方針は至ってシンプル。




 『無理のない範囲で優しくする』だ。




 現段階では、ミケくんがどの続編ヒロインを選ぶか不明なので、なるべくどの続編ヒロインからもいい人間だと思われていたい。




 『将を射んと欲すればまず馬から射よ』という訳だが、将が乗る馬が分からないので、色んな馬にニンジンを食わせておくということだ。競馬で言うなら、極論、原資が減ることを気にしなければ、全ての馬券を買えば絶対に当たるってこと。




 まあ、ミケくんがヘルメスちゃんを選んでくれないと救世主くんが産まれないんだけど、そっちは最悪、二人の精子と卵子を頂いて、冷凍保存しとけば未来の遺伝子技術でメイクベイビーはできちゃうから問題なし。




 他の人からみたら、『ん? それって今までのくもソラのヒロインへの接し方と何も変わらなくない?』と思われるかもしれないけど微妙に違う。




 俺はくもソラの方のヒロインのためなら個別ルート回避のために多少の無茶はする。




 しかし、続編のヒロインのためには第三者として良識的な範囲でしか協力するつもりはない。




 だって、続編のヒロインをなんとかするのはミケくんの仕事だからね。そこら辺の住み分けはちゃんとしないと。




「もちろんっす! 祐樹くんの言う通り、筋はきちんと通さないっとダメっす! じゃあ、プロフェッサーと親父のケジメが取れたら、姐さん預かりで訓練してくれるってことでいいんっすね!?」




 虎鉄ちゃんが確認するように言った。




「もちろん。きちんと手順を踏んだ上でなら構わない。なあ、アイ?」




「ふふふ、いいわよぉ。何度でもボコボコにしてあげるぅ。でもぉ、アタシはロボ子みたいに都合よくはいかないわよぉ? ひょっとしたら、勢い余って虎子を殺しちゃうかもぉ」




 アイちゃんは冗談か本気かわからない口調で呟いた。




「それはもちろん、覚悟の上っす! 姐さん! なんなら、今からでもお願いしたいっす!」




 虎鉄ちゃんがガッツポーズをして言う。




「いい度胸じゃなぃ。一日に何回死ねるか、ギネス記録を狙ってみるぅ?」




 アイちゃんもノリノリだ。




 まあ、他の兵士娘ちゃんたちは別にバトルジャンキーじゃないもんね。彼女たちも職務上の要請から訓練はきちんとするけど、アイちゃんの戦闘欲を満たすような貪欲な向上心を持った子たちではない。その点、脳筋全開の虎鉄ちゃんの相手は、アイちゃんとしてもやりがいがあるのだろう。




「やる気があるのは結構だけれど、ほどほどにね」




 俺はそう言いつつ、兵士娘ちゃんたちに目配せした。




『実際、虎鉄ちゃんに死なれたら困るので、いざとなったら止めてくれ』という意味だ。




 兵士娘ちゃんたちが、以心伝心で静かに頷く。




(まぁ、この先どうなるかはともかく、今日の所は、虎鉄ちゃんには気持ちよくバトり接待をして帰ってもらいますか)




 俺はにっこりと微笑んで、休日に麻雀に誘ってくる上司を見るような目で、虎鉄ちゃんを見つめた。

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