第123話 脳筋キャラは大体チョロい(1)
「キャッツアイの気配が消えた……」
「――マスター! 隊長の勝ちです!」
「隊長、本気の半分も出してないのにすごい!」
「うん。私なら、ビビってもうちょっと力を使っちゃうと思う!」
兵士娘ちゃんのたちが口々に快哉を叫ぶ。
彼女たちは感覚で勝利を知ったようだが、俺の双眼鏡の視界はモクモクの黒い煙が映っているだけで何も見えない。
「ああ。さすがはアイだね――で、みんな。気持ちはわかるけど、みんなちょっと落ち着いて」
でも、俺は『初めから全部わかってましたよ』感を全開にして、クールに言った。
「す、すみません。――では、この後は手筈通りに?」
「うん。救援お願い」
俺は兵士娘ちゃんたちに、スプレー型の酸素ボンベやら、代わりの着替えやらを持たせて、空地へと使いに出す。
なぜ俺が直接行かないかっていうと、虎鉄ちゃんは今おそらく、全裸だから。
ギャルゲー主人公は、変態であろうと常に紳士であらねばならないのだ。
やがて、意識を失った虎鉄ちゃんが家に運び込まれてくる。
そのまま虎鉄ちゃんを布団に寝かせ、アイちゃんの労をねぎらうなどしていると、小一時間もしない内に彼女は目を覚ました。
「おはよう。試合、お疲れ様。それで、どこにも怪我はないかな? 一応、すぐに手当はしたんだけど」
俺は、上体を起こした虎鉄ちゃんに問う。
「は、はいっす。大丈夫だと思うっす」
虎鉄ちゃんはぼんやりとした表情で、感触を確かめるように拳を握ったり開いたりしてから言った。
「うふふふ。あははははは。どぉ? どぉよぉ、虎子ぉ。格下のアタシに完敗した気分は。悔しい? アタシが憎い? 殺したいのぉ?」
ご機嫌のアイちゃんが、優越感全開のニヤニヤ顔で絡みに行く。
「……。……。……サードニクス!」
突如、虎鉄ちゃんが跳躍する。
そして、そのまま、ズザザザザザザ、と流れるような電光石火のスピードで土下座を決めた。
あっ。ちょっと畳が焦げてる。
この人間ピカチュ〇が。力を漏らすのやめてよね。俺はマサラタウン生まれじゃないから、電気耐性とかないんだよ。
「な、なによいきなりぃ。新手の攻撃かと思ったじゃないのぉ!」
ジャパニーズ土下座を見慣れてないアイちゃんは、オートカウンターをぶちかまそうと上げた脚を引っ込めて言う。
「サードニクス――いや、姐さん! 姐さんにお願いがあるっす!」
「はぁ? あんたみたいなしょうゆ顔の親族を持った覚えはないんだけどぉ?」
アイちゃんが首を傾げる。
っていうか、アイちゃん、しょうゆ顔って……。2000年代でもちょっと表現が古くない? まあ、田舎はケーブルテレビとかで結構昔のドラマや映画の再放送とかやってるからな。
「姐さんは尊敬する女の人に使う言葉っす! もし年下でも、自分より偉い女の人は全員姐さんっす」
「マフィアの内輪ルールなんかに興味ないわよぉ。それでぇ? アタシにお願いってぇ?」
「はいっす! ずばり言うっす! 小生を、小生を、姐さんの舎弟にして欲しいっす! 子分になりたいっす! ビシバシ鍛えて欲しいっす!」
「つまり、稽古をつけて欲しいってことぉ? 虎子、アンタ、普段、ロボ子とかに稽古つけてもらってるんでしょぉ? そのために、研究所に行ったんじゃないのぉ?」
「はいっす! ダイヤは確かに強いっすけど、全属性使えることが前提の戦い方をするじゃないっすか。だから、小生の参考にはしにくいんっす! その点、姐さんの能力は、小生の能力と特徴が近いから、学ぶ所が多いんっす!」
「ふーん……。マスター、どうするぅ? アタシはどっちでもいいわよぉ。まとわりついてくる子犬が一匹増えたところで、やることは変わらないしぃ」
アイちゃんが髪を指でクルクルして言った。
気のない素振りをしてるが、これは喜んでるやつだな。
アイちゃんは格上には敵意剥き出しだが、見込みのある格下には優しい所がある。
ソフィアちゃんにそうしたように、格下を育て、自分の所まで引き上げて、その上でまた倒すのが好きなのだ。
「祐樹くんにも、どうかお願いするっす! 小生は、誰よりも強くなって、組を引っ張っていきたいんっす!」
虎鉄ちゃんは、今度は俺の方に向かって土下座した。
脳筋らしく、迷いのない真っ直ぐな声だった。
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