第99話 幕間 3倍偉大のヘルメス(1)
ウチの目の前に、二つの山がある。
石ころの山と、金の山。
石ころを掴んで、両手でギュッと包み込む。
鼠色の石が、金色の輝きを帯びる。
(1万2995、1万2996、1万2997)
石ころの山を減らして、金の山を増やす。それが今日のウチの仕事だ。
ある程度、金の山が溜まったら、職員が回収していく。
そして、石ころの山が補充される。
その繰り返し。
(こういうの何て言うんだっけ。――そうそう。『サイノカワラ』)
たどたどしい英語しか喋れなかった、東洋出身の娘が教えてくれた。
東洋の地獄に落ちた子どもは、川の側で延々石の山を作らされるのだという。
そして、山が完成する前に、
(どうしてそんなことをさせるんだろう? なぜ子供は地獄に落ちたんだろう?)
その疑問の答えを多分、へルメスは一生分からないままだろう。ちゃんと英語を覚える前に、彼女は死んでしまったから。
(1万2998、1万2999、1万3000)
「さあ、今日のノルマは終わりよ」
「……」
ヘルメスの呟きを所員は無視した。
金属の類を一切身に着けてない、半裸の大男だ。
武器は、巨大な石の槍。
銃もナイフも、ヘルメスの前では意味をなさないと知っているからこそのいでたちだ。
(はいはい。賄賂を寄越せって訳ね)
こいつが黄金の一部を横領していることを、ヘルメスは知っていた。
知ってて、放置していた。
まだ、こいつは融通が利く方だから。
ヘルメスは黙々と作業を続ける。
「一万3103」
「……」
「チッ。ちょっと、欲張りすぎじゃないの。あんた」
結局、それからさらに200個も作らされるはめになった。
ヘトヘトになって、部屋へと帰りつく。
倒れ込むように横になる。
「お姉ちゃん!」
「大丈夫!?」
他の
「大丈夫よ。大丈夫。これ、みんなで分けなさい」
ヘルメスは笑顔で、ちょろまかしてきた石を取り出す。賄賂の代償に見逃してもらって得た、ただの石ころ。
ない力を振り絞って、ヘルメスは力をこめる。石ころは、硬い黒パンに変わる。
ヘルメスは石をパンに変えることができる。
「わあ! ありがとう!」
「ちょうだい! 私にもちょうだい!」
「みんな、ちゃんとお姉ちゃんの分も残しておかなきゃ!」
はしゃぐ子どもたちの声。
「いいのよ。ウチはあんまりお腹空いてないから」
ヘルメスはそう言って、瞳を閉じた。
半分本当で、半分嘘。お腹は減ってるが、それ以上に疲労感と吐き気が強くて、食べる気がしない。
窓のない部屋。朝も夜も分からない。またすぐに次の実験か、トレーニングかもわからない何かが始まるのだろう。一分、一秒でも長く休まないと。
やがて、ヘルメスは、気絶するように意識を手放した。
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