第71話 踏みとどまる努力をしない者には二番底が待っている

(まあ、欲張ってもろくなことはないよな。今の所、俺は、そこそこ上手くやれている。そのはずだ)




 渚ちゃんは、このまま生命の危険がないように育ってくれればそれでよい。




 祈ちゃん、みかちゃん、たまちゃんの三人は、ビジネスを通じて、ちょうどいい距離感で関係性をコントロールできている。




 シエルも基本的は、いい感じにビジネスライクと友情のバランスをとれた付き合いができていると思うが、上の三人と違い、彼女のバックボーンに財閥がある以上、完全に手綱を握れている訳ではないのは気がかかりだ。とはいえ、今の彼女に対して、これ以上俺からアプローチできることは少ない。




(と、なると、やっぱり当分の懸念はこいつか。ぷひ子フラグだけがどうにも片付かん)




 俺は、さすがのメインヒロイン《ラスボス》を一瞥する。




「ぷひゅひゅ。ゆーくん、おしるこおいしいね」




「太るぞ」




「もー、ゆーくんはまたいじわるなこと言うー。おしるこに痩せる納豆エキス入れたから大丈夫だもん!」




「そうか……。納豆は本当に万能だな……」




 本当に、ぷひ子をどう扱っていいか分からない。彼女の場合、他のヒロインのようにビジネスに絡めるのも難しい。また、ぷひ子は人生における恋愛依存度がとびきり高く、とってもスイーツな脳みそをしておられる。なので、みかちゃんみたいに『恋人じゃなくてもゆうくんの側にいられればいい』みたいな割り切りかたもしてはくれない。




 つまるところ、ぷひ子に対しては俺と恋愛関係になる以外で、満足させる方法がないのだ。




 それ以外にぷひ子問題を解決できそうな可能性がある道は、一本だけ。




(……このまま、思春期が過ぎて、ぷひ子が巫女として時間切れになるのを待つしかないのか?)




 ぬばたまの姫の巫女となるには、ギャルゲーとしての都合――ではなく、祭神との親和性の観点から、年齢制限がある。




 本編の呪いに絡むのは、一番年上クラスのヒロインでも、二十代前半くらいまでだから、さすがにアラサーになると、『乙女』という要件を満たさなくなると判断していいだろう。




(っつっても、俺はこれから20年以上もぷひ子のご機嫌を取って暮らさなきゃいけないのか? 長い……)




 そう思うと少し憂鬱だ。




(まあ、それでも、すでに対策はしてるが。――まずは、俺が買収した中高一貫校に、ぷひ子を含む、くもソラに登場するメンバーを通わせて、この村から距離を取り、思春期を乗り切る)




 2000年代とはいえ、すでにこの頃から少子化が叫ばれて久しい。経営難の学校なんてごまんとあった。その中から、変なフラグが立ちそうにない所を選別し、現理事会のメンバーに高めの退職金を提示してやれば、すぐにカタはついた。




 みかちゃんは俺の手中にあるし、俺とみかちゃんが通うとなれば、ぷひ子も追随することは間違いない。




 香と渚ちゃんも、ぶっちゃけ教育レベルの低いこのド田舎の学校よりはマシだという事実をもとに説得すれば、彼らの親も納得するだろう。




 翼はスポーツ推薦でどっか他の学校に行くかもしれないが、まあ、とにかくこの村と引き離せればそれでよい。友達の俺たちが村を離れれば、翼が村に来る機会も極端に減るのだ。




(その後は、ぷひ子次第か……。進学なら、この村に大学はないから、ぷひ子は村から離れてくれる。そして、就職するなら、適当な都市部の、俺の持ってる会社に就職させれば万事OKだ)




 他のヒロインにそうしたように、ぷひ子に夢があるならそれをサポートしてやるし、そうでなくても、何もしなくても真っ当な生活が送れるくらいのおいしい仕事は用意してやる。都会に出れば、男との出会いも増えるし、俺以外に目がいくこともあるだろう。その場合は、きっちり相手の身元を調査して、ぷひ子を幸せにできるような真っ当な人間なら任せればいいし、そうじゃないなら、金と権力と暴力で潰させてもらうまでだ。




「うしっ。じゃあ、身体も休まったし、そろそろ続きやろうぜ」




 俺は思考を整理すると、心の奥で密かに気合いを入れ直して立ち上がる。




 この俺の人生という名のギャルゲーはマラソンだ。気長にやっていくしかない。




「し、しかたありませんわね。ユウキがそんなにやりたいとおっしゃるならば、付き合って差し上げてもよろしくてよ?」




 シエルがテンプレツンデレムーブな口調で言って、胸を張った。




「おっしゃ。でも、二人抜けて、祈ちゃんが加わると、二対三になるな」




「そもそも審判は必要ないのでなくて? 雪玉に当たったかどうかは自己申告でも問題ないはずですわ。不正をするような方はこの中にはおりませんでしょうし」




「それもそうだな。じゃあ、みか姉にも雪合戦に加わってもらおうか」




「わかったわ。祈ちゃん。どっちのチームに加わるか決めていいわよ」




「では、シエルさんの側で。次の本では、貴族の子弟が平民を雪合戦でいじめるシーンがあるので」




「ふふふ、盛り上がって参りましたわね。今度こそ、幼馴染の絆とやらを見せて欲しいものですわ」




 あっ。シエルのお嬢、当然のごとくぷひ子を俺に押し付けやがった。さすが貴族、汚い。




「ぷひゅひゅ、ゆーくん。頑張ろうね」




「おう」




 俺はぶっきらぼうに言って、雪合戦へのフィールドへ一歩踏み出す。




「渚もう雪合戦飽きたー。雪だるまとか作りたーい」




「渚ちゃん。もうちょっと頑張ってくれないかしら。そしたら、後で雪だるまを作る時、鼻のにんじんをつける一番大事な係を渚ちゃんに任せるわ」




「わーい、じゃあ、頑張るー」




 こうして、俺たちは二回戦目の雪合戦に、まったりと突入するのだった。

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