第51話 専守防衛は日本の誇り(1)

「ここは昔から賽蛾組のシマじゃい!」




「おらおら、撮影したいなら誠意見せんかい!」




 暴れる、騒ぐ、壊す!




 テンプレチンピラムーブで、三下たちがイキリまくる。




「ねぇ、あいつら、殺していいんでしょぉ?」




「そんなことより、みんなの安全の確保が先!」




 俺は、舌なめずりするアイちゃんを制して、いい子ちゃんムーブをかます。




「さあ、監督、演者さんたちも、下がってください! 警備員の方は、見学者の皆さんの避難誘導を!」




 俺はそう叫びながら、内心、大いに歓喜していた。




(待ってたぜぇ! この時をよぉ!)




 ようやく、向こうから仕掛けてきてくれた! これで大手を振って、地元ヤクザさんを討伐できるぞ!




 ぶっちゃけ、戦力的には、ママンから金で兵隊を雇えばもっと早くに決着をつけることもできた。




 でも、敢えてそうしなかった。




 なぜかって?




 いくら相手をヤクザだからといって、何の被害も受けてないのにこっちから手を出したら、俺が暴力大好き人間みたいになるだろ?




 こっそり闇討ちするって言っても、状況証拠的に、俺がやったってことはモロバレだし。




 そういう卑怯な振る舞いは、『主人公』っぽくないからね。我慢してたという訳だ。




 もちろん、ただ手をこまねいていた訳ではない。奴らの権益である公共事業の入札とか、廃棄物処理事業とかにはちょっかいかけて、ヘイトを溜めることは忘れていない。




 いわゆる、誘い受けってやつ?




 今回の件も、不穏な動きがあることは事前に察知していた。




 アイちゃんがいれば余裕で何とかなるとは思うけど、今も野次馬に紛れさせる形で、ママンのエージェントも仕込んでる。対策は万全だ。




「……全く、どこでもこういう輩はいるものね」




 避難してきた小百合ちゃんの肩を守るように抱きながら、佐久間さんが呟く。




「さすが芸能界だけあって、お詳しそうですね」




「最近はそういうのもあまりなくなってきたわよ――ともいいきれないか」




 俺の軽口に、佐久間さんが肩をすくめた。




「私たちはただいい映画を撮りたいだけなのに、どうしてこんなことを……」




 小百合ちゃんがヤクザたちに軽蔑の視線を向ける。




「ぷひゃひゃー! ゆうくんー、どうしよー。怖いよー」




「ゆうくん……」




 震えて俺に寄り添ってくるぷひ子とみかちゃん。




 気持ちは分かる。でも、俺的には君たちを攻略するよりは全然怖くないんだな、これが。




 みかちゃんの本編ブチ切れモードだとヤクザさんとか歩く血液パック扱いで、三時のオヤツ代わりだしね。




「僕、悔しいよ。みんなこんなに一生懸命やってるのに……」




「あのおじちゃんたち嫌い……」




 香くんと妹ちゃんも嫌悪感をにじませて言う。




 これで、ヒロインたちや周囲の方々の脳裏に、ヤクザは悪い奴ということが刻み込まれたので、こっちがやり返す大義名分ができたという訳だ。




 やっぱり戦争で大事なのは建前だぜ!

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