第50話 スターの出会いは嵐を呼ぶ
「小日向さん、西入さん、入りまーす!」
撮影現場となった村の商店街は、異様な熱気に包まれていた。
一世を
シャッター通りになっていた商店街もにわかに活況を呈す。錆びたシャッターは開き、即席の休憩所が作られた。
当然、周りにコンビニなんてないので、農家のおばちゃんたちが握り飯と麦茶を持ち込んで売り始める。良きかな、良きかな。
存分に美味い汁を吸って欲しい。
地元民からの好感度も稼いでおいて悪いことはない。
(うんうん。やっぱり、プロの方が映えるね)
俺はセットの外から小百合ちゃんと俳優を見守りながら頷く。
「悪漢からお姫様を助けるヒーローの次は、映画のスポンサー。と思ったら、名俳優? 本当に何者なのよ。あなたは」
小百合ちゃんについて撮影現場に来ていた佐久間さんが、俺に声をかけてくる。
「いやあ、成り行きで」
「ふうん。成り行きでアレだけできれば大したものねえ。それに、あの女の子のことも、聞いてないわよ」
「アイのことですか? すごいでしょう。俺の隠し玉です」
俺は不敵に笑って胸を張る。
「これは、あなたの事務所、うちの商売敵になりそうねえ」
「敵だなんて物騒だな。ここは日本人らしく和の心で共存共栄といきませんか。委託料は払いますから、そちらの事務所のレッスンに参加させてくださいよ。近々もっと女の子が増える予定なんで」
できれば、アイドルグループとかも作りたいな。
俺は近い将来、〇KBとかが流行るのを知ってるからね。
「ふうん。上と掛け合ってもいいけど、いい子がいればウチで引き抜くわよ」
「いいですよ。本人が望むなら」
俺は半分本気で言った。ママンから斡旋してもらう予定の子たちは、基本兵士にするつもりだが、それしか生きる道がないのもかわいそうだ。芸能界でやっていける実力があるなら、そういう道を選ばせてやってもいい。もちろん、ママンに払った金を取り戻すくらいの恩は返してもらうけどね。
「引き抜かれない自信がありそうね? ふう。とにかく、子役ばかりが注目を集めて、肝心の小百合が空気なんてことにならないようにしなきゃ」
「そうはならないでしょう。小百合ちゃんと俺たちでは、スター性が違う」
「当たり前じゃない。冗談で言っただけ」
今度は佐久間さんが胸を張る番だった。
「――そろそろ、始まりますね」
「ええ」
俺たちは、口を噤む。
現場の空気が一気に張りつめる。
「それでは、撮影はじめまーす! 5、4、3、2、1」
「昔もこうやって、二人で歩いたよね。この道」
制服姿の小百合ちゃんが懐かしそうに言う。
「鬼ごっこの後?」
イケメンがクールに言った。
「うん。二人で駄菓子を買おうとして、私は5円。君は10円しか持ってなくて。覚えてる?」
「覚えてる。俺が買ったうまか棒、二人で分けたよな」
「そう。二人で半分こ」
「いや、お前の方が大きい方を持っていったよ」
「そうだっけ? でも、私は5円をお賽銭にしたんだから、いいじゃない。結局、あなたのお家のものになるんでしょ」
「そうだな。でも、多分、神頼みなんか効果はないよ」
「それ、神社の息子が言うセリフ?」
「だって、色んな人が願っても、商店街はこの有様だし」
「うん。すっかりガラガラになっちゃったね。あの駄菓子屋も、もうないもん。今も、私たち以外、誰もいない。寂しいね……」
「いや、案外悪くないかもな」
「どうして?」
「だって、手を繋いでも恥ずかしくない」
イケメンが小百合ちゃんの手を握ろうとした、その瞬間――
「おう! おう! おう! うるせーな! 誰の地元で商売しとんじゃい! こら!」
「賽蛾組に話通しとんのかい! ワレぇ!」
突如、ダミ声と共に、ガラシャツ兄ちゃんたちがカットイン!
あれれー? おかしいなー。ヤクザをフルボッコにするシーンはまだ先のはずだぞー?
============あとがき====================
きりのいい話数なので宣伝させてください。
ファンタジア文庫様に、本作『鬱ゲー転生。 知り尽くしたギャルゲに転生したので、鬱フラグ破壊して自由に生きます』の書籍版の特設ページを作って頂きました!
表紙とか諸々載ってるので、よろしければ覗いてやってください!
https://fantasiabunko.jp/special/202202utsuge/
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