第6話 ノーマルエンドは甘え(1)

 さて、そんな考察はともかく、創作物だと、こういう俺みたいなゲーム世界に転生した人間が目指すべきは、誰ともくっつかないが、ひどい目にも遭わないノーマルエンドだが……。




(でも、このゲーム、ノーマルエンドなんてねえんだよな……)




 全てのギャルゲーにノーマルエンドがあると思ったら大間違いだ。くもソラの場合、全員に興味のない選択肢を選び続けても意味がない。




 仮にそうした場合、最悪のワーストエンド――古の呪いが際限なく蔓延して、世界滅亡エンド――となる。




 くもソラではヒロインの攻略と、ヒロインの悩みやトラウマに刺激されて発動してしまった呪いから世界を救済するのが、ニコイチでセットになっている。




 全てのヒロインは、昔この地方にいた、ラスボスの『ぬばたまの君』という女の血を引く、『ぬばたまの巫女になる素質を持つ乙女』であり、ラスボスのぬばたまの君と魂がリンクしているからだ。




 基本、ゲームがハッピーエンドを迎える=ヒロインの悩みやトラウマが解消されて幸せになることによって、ヒロインとリンクしたぬばたまの君の魂が間接的に癒されて、呪いが収まる、という構図である(収まるだけであって解決ではない)。




 ちなみに、根本解決をするにはトゥルーエンドだが、あれはもう、言葉にしたくないくらいキツいので選択肢には入らない。




(んー、正攻法でいくなら、キツい中でもなるべくマシなヒロインのルートを選ぶしかないよな……)




 どのヒロインのルートもキツいが、強いてマシなのをあげろとなれば、シエルルートか。この娘はいわゆる、ハーフの『金髪ドリルお嬢様』枠だ。主人公はなんやかんやで婿候補に選ばれて、彼女を勝ち取るために死ぬ気で色んな訓練を受ける――的なやつである。




 このゲームでは一番グロくないルートだが、それでも途中にダース単位でちょっとミスれば死にそうな場面が出てくる。




(でもなあ、やっぱり気が進まないよ)




 この世界の人間にゲームのプログラミングでない人格があるなら、好きでもないのに攻略するのは失礼だし、あらかじめこちらが相手の心につけいる選択肢を知っているというのも卑怯な気がする。




 なので、できれば、ゲームに出て来たヒロインたちとは深い関係にはならずにいきたい。




 なんとかならないものか……。ぶっちゃけ、ヒロインたちとの恋愛関係はどうでもいいのだ。世界を滅亡させる呪いさえなんとかできれば……。呪いを根本解決――は無理だ。発想を変えろ。俺のこの世界での寿命が尽きるまでどうにかできればいい。そう考えると――。




(待てよ……。呪いは全て、ヒロインたちのトラウマがトリガーになってる。ということは、そもそもトラウマの原因となる事件を発生させなければ――。……これは、いけるんじゃないか?)




 例えば、今、俺が蝉取りに行けば、ぷひ子がみかちゃんを殺してトラウマが完成してしまう。しかし、行かなければそれは起こらない。同様に、他のヒロインにもトラウマを得る分岐点があったはずだ。




 ゲームでは、何人かのヒロインを除き、主人公とヒロインは青年期に初めて出会って攻略に至る。すなわち、主人公と出会った時点で、すでにヒロインたちは悩みを抱えてしまっており、呪いが発動してしまっている。




 だが、ゲーム知識のある俺は、幼少期の今から、未来のヒロインたちの悩みを叩き潰すために動くことができる。




 トラウマがなければ、ストーリーが始まらない。




 ヒロインがトラウマを得る前にその根本原因を潰してしまえば、そもそも、攻略する必要はないのだ!




(これだ。これしかない!)




 俺は一人深く頷く。最悪、ゲームの文法にのっとってシエルルートに入るにしても、彼女と出会う青年期までにはまだ時間がある。今は、ガキの内に出来る限りあがいておくのも悪くない。

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