第5話 ギャルゲーはライターのエゴでできている

 俺は黙々と釣り竿を準備しながら、思考を繰る。




(さて、俺がくもソラの主人公になったつーことは、俺はこのギャルゲーの適当なヒロインのルートをクリアしろってことか? 技術的には無理ではないが……)




 ぶっちゃけていえば、ゲームとしての『くもソラ』をクリアするのは大して大変な作業ではない。


 そもそも、くもソラはそんなに難しいゲームではないのだ。




 どのヒロインであれ、エンディングに至るまでの積み重ねのパートでふざけた選択肢を選びまくって好感度を下げたりせず、かつ、終盤の二つか三つかある重要な選択肢を間違えなければ普通にクリアできる。




 じゃあ何が問題かって?




 その『過程』のストーリーがめちゃくちゃヤバイ。




 例えば先のぷひ子のルートはさすがメインヒロインだけあって壮大で、『何千年も輪廻転生を繰り返し、呪いに至る因縁を解きほぐしつつ、一つの愛を貫く』というものだ。




 文字にするとロマンチックな話だが、具体的には、応仁の乱から第二次大戦に至るまで、ひたすら戦乱の最前線に放り込まれる。なぜかっつーと、大古の昔、国生みの神々に捨てられた蛭子神の呪いが云々、人々の戦を誘発して云々な設定だからだ。




 まさにマジキチとしか言い様がない。ゲームなら、主人公がいくらひどい目にあってもいい。テキストをせいぜい一、二時間読めばそれで何万年をスキップできる。だけど、実際生身で何万年も輪廻転生を体験させられたら、確実に頭がおかしくなる。精神崩壊不可避だ。




(ともかく、ぷひ子ルートだけは絶対、攻略したくない。マジ辛い)




 じゃあ、ぷひ子以外のルートなら良いのか?




 いや、ダメだ。




 その他のヒロインのルートも、『主人公がヒロインの呪いの一部を引き受けた副産物として得た不老不死とループの力で、怪物やら刺客やらに何度も何度も殺されながら強くなって、ヒロインを守り抜く』、『悪夢にとらわれたヒロインを探すために、サイ〇ント〇ル的なドロドロとグチャグチャしかない精神世界に挑む』、などなど、程度の差はあれど、どのヒロインのルートを選んでも、めっちゃ辛い目に遭う。




 どれもギャルゲーのストーリーとしては王道に見えるが、実際には体験したくないものばかりだ。




 くもソラは泣きゲーである。泣きゲーで盛り上げるためには、それ相応の障害がなければ仕方ないのは分かるのだが、このゲームの場合、その過程の描写がとにかくきつい。




 グロくてエグくてメシマズである。




(そもそもこのゲームのライターの真骨頂は、陵辱&グロゲーだしな)




 買った後から知ったことだが、このギャルゲーのメインライターは18禁ではその手のジャンルで有名な男だった。ライターの嗜好に合わないジャンルを書かされたのだろうか。憂さ晴らしのように、試練パートでは徹底的に主人公を追い込んでくる。




 もっとも、少年時代の俺は、「この尖りっぷり最高!」などと厨二な賛辞を送っていたが、実体験するのは絶対にいやだ。




 つーか、ストーリー上は不必要なほどの残虐で陰惨なシーンが、このゲームを佳作どまりにした原因だと思う。一般受けしない。




 本当は、ライターはひ〇らしをもっとドきつくしたみたいなのを書きたかったのかもしれないが、商業的にNGを喰らった結果、当時流行っていた泣きゲー要素をねじこまれた結果のくもソラなのではと、俺は邪推していた。

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