第4話 一周目ルート強制はよくあること
今、ここで『蝉取りに行く』を選ぶと、その時点でぷひ子ルートに突入する。
『やっぱやめる』を選択すると、他のヒロイン攻略の道が開ける。
というか、そもそも、ゲームでは一周目はぷひ子ルートしか選べない。ぷひ子ルートは、このくもソラの物語の全体像を提示するイントロダクションの役割を果たしているからだ。
それはともかく、ぷひ子ルートを思い出そう。
このルートでは、俺とぷひ子とみかちゃんの三人で神社での蝉とりに向かう。ちなみにみかちゃんとは、もう一人の幼馴染であり、主人公の初恋の女の子だ。
三人で蝉取りを楽しみ、小学生らしくちょっと冒険したい気分になった主人公一行は、いつもは行かない人気のないやぶの中に分け入る。そこで、主人公はみかちゃんが好きなので、みかちゃんにモーションをかけ、なんやかんやでいい雰囲気になる。
いちゃいちゃする主人公とみかちゃんにNTRで脳が破壊されたぷひ子は、いたたまれなくってその場から逃げ出す。そして、逃げ出した先でうらぶれた拝殿を見つけ、ふとした悪戯心からその中に入るのだ。
そこには、ご神体が封印された箱が安置されており、ぷひ子はそれを知らず、悪戯心で封印を解いてしまう。そこで、ぷひ子はダイレクトに強めの呪いの気を受け、『ぬばたまの君』の怨念に取り付かれる。
呪いはぷひ子の負の感情を増幅し、みかちゃんへの嫉妬心を爆発させたぷひ子は、拝殿からの帰り道に発生した遭難事故を利用して、みかちゃんを殺す。まあ、正確には、殺すというより、『助けられたのに見殺しにした』のパターンだが、ともかく、みかちゃんは死ぬ。
この事故で、ぷひ子と主人公は心に深い傷を負い、ぷひ子のトラウマは『ぬばたまの君』の怨念を刺激して、歴史の奥に封印された呪いが発動し、国産みの神話の時代まで遡る壮大な伝奇ホラーストーリーが始まる――という訳だ。
つーか、このぷひ子、天然キャラにみせかけて、納豆みたいな粘着質な性格してるからね。クソが。
あ、ちなみにみかちゃんは、ぷひ子ルート以外だと普通に生き残って、青年時代にはちゃんと攻略対象になるので安心だゾ!
さて、問題はこの世界でのルート進行がどうなってるかだ。もし、強制的にルートが定められていれば、俺は問答無用でこのぷひ子を攻略しなければならないことになる。
今の俺はみかちゃんのことが好きでもなんでもないが、わざわざ見殺しにするほど畜生でもないので、ぷひ子ルートは回避したいところだが……。
「んー、やっぱ気が変わった。今日は海に行こう」
「えー、蝉さんはー?」
「魚の方がいいじゃん。釣ったら食えるし」
「んー、わかった。じゃあ、帰りに駄菓子屋さんに寄ってくれるならいいよ」
「よし。決まりだ。ミカにはお前から連絡しておいてくれ」
俺が電話すると嫉妬して変な地雷を踏かねないからね。全くこの納豆娘は。
「はーい。竿とかはゆーくんが用意してねー」
「わかった。一回家に戻って準備してくる」
(ふう。とりあえず、一周目のルート強制はないようだな。もしこの世界が全クリ済みの俺の攻略データを引き継いでいるのだとすれば、当然の話ではあるが)
ひとまずほっと胸を撫で下ろした俺は、自身の家へと引き返していった。
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