第4話

「奴らもうすぐくるぞ。集中しろよ」


 彼の背中越しにどんな相手なのか観察してみる。髪が短くて白い人は私よりも少し大きそう。一目見て女の人と分かるような体型をしている。黒く短い髪の子は可愛らしい顔をしているけど、体型を見る限り男の子だろう。外見を観察してみた感じではやっぱり普通の人と大して変わらない。


「結構近くまで来たが、心は読めそうか?」

「あなたの心も読めてしまうからどれがあの二人のか分からないですけど、喜びと焦りと警戒の感情が読み取れますよ」


「喜びは俺じゃあないな。ていうかそういう大体のことしか読めないのか?」

「はい。あくまで感情が読めるだけです」


「そうか。他の閻魔もそうなのか?」

「いや、そうでもないですよ?もっと具体的に読める人もいれば人間の感情しか読めない人もいますし、色々です。お父さんなんか凄く細かく読めるそうですし」


「そうか、分かった……来たぞ」


 目の前にあの二人がいる。凄く真剣な表情だ。彼の感情ではないだろうけど、すごく怯えているみたい。


「りょうてとりょうあし、へん、あと、つのもある」

「……獄卒……ですか?」


 私の角と彼の両手足に怖がりながらも口を開いてくれた。確かに何も知らない人からしたら私と彼を獄卒だと疑っても不思議じゃない。


「いや、俺は人間だ。両手と両足は人間じゃあないけどな」

「私は獄卒じゃなくて閻魔です。だから怖がらなくて大丈夫ですよ。人を傷つけるつもりはありません」


 それを聞いて安心したのか二人から恐怖の感情はなくなった。

 すると突然、二人が地面にお尻をつけて座り込み、足の間に手を置いた。犬がお座りをしているみたい。


「おねがい、たすけて、ごくそつにむれ、やられる」

「……助けて……下さい」


 黒い髪の子はあまり日本語が上手じゃないんだろうけど、必死に伝えようと頑張っている。白い髪の人は声は小さいけど、必死に頷いている。二人とも凄く真剣な顔だ。心から必死なことが伝わってくる。


「事情は大体分かったが、その前に一つだけ聞いておくぞ。お前らは人間か?」

「ちがう、おれ、いぬ」

「……私は元々狼だったんですけど……死んだときに人間の姿になることを強く願ったんです……だから人間の見た目をしています……詳しいことはまた後で話しますから……お願いです……獄卒に襲われている私たちの仲間を助けてください……彼らは普通の人間なんです……」


 そう言われて彼は私の方を見る。彼女たちは全く嘘を付いていなかったから、私は彼に軽く頷いた。

「残念だが……俺の後ろにいる女は閻魔だからな。獄卒殺しなんて許しちゃくれねえよ」


 確かに獄卒は閻魔の天敵だけど家来だ。それに、殺すのはちょっと嫌だ。でも、だからって人間が殺されているのを見殺しにするのも嫌だ。


「行きましょう。急いで案内してください」

「おい、良いのかよ。危険なんだろ」


「だからって人間を見殺しにもできないです。それにあなたも獄卒に色々聞きたいことがあるんじゃないんですか?」

「……それもそうだな。よし、行こう。案内してくれ」


 そう彼が言うと二人の人?は嬉しそうに笑った。そしてすぐ顔を引き締めて走り出した。

「こっち、ついてきて」


 走り出したは良いんだけど、みんな凄く速い。ついていくので精一杯。

「おれのなまえ、くろ、ほら、しろも」

「……シロ……です」


 丁寧に自己紹介までしてくれた。この子たちは良い子そう。なんで地獄にいるんだろう。

「俺は別にお前らと仲良くしたい訳じゃない。適当に呼んでくれ」

「私の名前ははるです。よろしくお願いします」

「よろしくござます」

「よ……よろしくお願いします」


 さっきから角に照れの感情が読み取れている。誰の感情なんだろう。

「あ、てめえまだ角だしてやがるな。早くしまわねえとぶった切るぞ」

「す、すみません。すぐしまいます」


 まさかさっきの照れは彼のだったのかな。たぶん違うとは思うけど。もし彼のだったら……想像してちょっとだけ笑いながら私は角をしまった。

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