B5 パロンの住む街"インシピエンディ"
小人―名はパロン―は発電所で働いている。実際に電気を街へ通すための発電所だ。小人の街は無限に広がる森林のちょうど中央にある。パロンが常に森林の中央にいる、と表現しても良い。人口は300人ほどの街である。名前は"インシピエンディ"という。想像の世界の街の中では、比較的大規模な方だ。
発電所はインシピエンディから小人の脚で15分。木々を切り分け作られた林道を行くと川の当たる。その川に隣接するように発電所が建てられている。林道にはパロンが未だ知らぬ花木が自生し、緑や赤の光線が交差する木漏れ日で溢れている。
パロンの住み所は中央広場の噴水を一望できる、木造二階建ての一軒家だ。建物の一階には、街に唯一のパン屋がある。どんぐり粉を用いて、澄んだ川の水で生地を作る。自然発酵によりじっくり膨らみを持ったパン生地は、河原の石で作られた窯で焼かれ、華やかな香りのどんぐりパンが出来上がる。
発電所は川の流れを利用した水力発電で電気を作る。1.5mの水車が水流を捉える。発電所と言っても、水車と小屋があるだけだ。小屋の大きさは、小人を人間のサイズに置き換えてみたところで5畳にも満たない小さなものである。
今日もパロンは川の流れを眺めている。
どんぐりパンを齧りながらパロンは思う。
「川の源ってどんなのなんだ?次の休みに行ってみようかな。どうしようかな。」
パロンにとって初めての冒険心が芽生えた。
林道の木々は水色の花を咲かせている。
街には春が訪れた。
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